2016 Fiscal Year Research-status Report
界面近傍の水と、そこから少し離れた水の運動状態を動的核分極NMR計測で比較する。
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16K17849
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
景山 義之 北海道大学, 理学研究院, 助教 (90447326)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 水 / 分子集合体 / 核磁気共鳴 / 緩和測定 / 分子運動 / 流動性 / オーバーハウザー効果 / 光開裂反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は(1)【DNP-NMR法の継続的な改善】と(2)【光開裂によって鎖長を変えるラジカル分子の合成】の2つの課題を計画した。これらの遂行に加え、(3)【光異性化を示すアゾベンゼンを混合したベシクル表面の水のDNP-NMR計測】を実施した。 (1) in-situ DNP-NMR計測は、高強度のマイクロ波を試料に照射しながらNMRを計測する。結果、増強されたNMRシグナルを得られる一方、試料温度の上昇という問題が起こる。これまでの計測では、試料室の空冷によって問題の回避を行ってきた。さらに放熱を促すため、試料管に入れた水系試料の上にフッ素系液体を載せることで、発生した熱を放つ工夫を試みた。結果、フッ素系液体が水系試料と混合することなく、かつ、水系試料の発熱を抑えることに成功した。これにより、より精度の高いDNP-NMR計測を実現できるようになった。 (2) 光開裂によって鎖長を変えるラジカル分子の合成は、のべ11段階の合成のうち、8段階まで実施した。当初計画の反応の1つが進まないことが判明し、分子設計を変え、ステップ数が増えたものの、当初計画されたペースで実験は進められている。 (3) 波長365 nmの光照射下でtrans→cis異性化をする両親媒性アゾベンゼンを混合したリン脂質ベシクルを対象に、その集合体を取り囲む水の流動性の、光照射前後での変化を、DNP-NMRによって追跡した。アゾベンゼン誘導体を混合したベシクルは、光照射前後で5%程度、平均粒径が大きくなるものの、その変化は大きいとはいえない。すなわち、ベシクル周囲の水の流動性も、光照射前後で大きく変わらないと予想される。実際、計量されたカップリング定数は0.035前後で大きく変わらなかった。この実験を試行することで、当該計画研究の一連の操作が着実に行えることを確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
DNP-NMR計測の計測法の最適化による再現性の向上、環状スピンラベル分子の合成の進捗は概ね順調であるとともに、光異性化分子を含むリン脂質ベシクルを対象にしたDNP-NMR計測にも成功した。この点までは、当初計画よりもやや進んでいる。 しかし一方で、装置の経年劣化による、今後の修繕の必要性が判明し、平成29年度からの研究がやや遅れる見込みである。これを踏まえると、計画全体の進捗状況は、おおむね順調と言わざるを得ない。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は(2)【光開裂によって鎖長を変えるラジカル分子の合成】の継続と、(4)【光照射によって粒径を変化させるベシクル表面の水のDNP-NMR計測】を主として行う。 (2)の計画は、目的の環状部位を有したラジカル分子の合成を完了させ、その光反応性等の機能を明確にする。 (4)の計画は、光開裂によって脂肪酸を生成する分子をリン脂質と混合し、ベシクルを形成させる。このベシクルは、光照射前後でその粒径を大きく変える。この粒径変化に伴う、ベシクル周囲の水の流動性変化をDNP-NMR計測によって求める。この計画については、すでに予備的な実験を行っていることから、再現性の検討、エラー範囲の検討を行っていく。
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Causes of Carryover |
平成28年度は100万円の予算に対し、953,665円を費やした。予算執行率は95%以上であり、ほぼ計画通りのペースで予算を使用している。ただし、有機合成に用いる少額装置類の故障に伴う購入、用いる光照射装置の計画変更等、当初予定よりも物品費への支払額が多くなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度については、DNP-NMR計測系を構成するESR分光装置の磁場安定性が悪くなっていることから、調整修理が必要である。このため、平成29年度の予算執行内容を変更する:成果発表と国際共同研究に伴う旅費支出を抑え、修繕費へと代替する。成果発表は平成30年度を中心に行っていく。
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