2016 Fiscal Year Research-status Report
非晶質試料の構造解析のための固体NMRによる炭素間距離決定法の開発
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16K17850
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
大橋 竜太郎 金沢大学, 物質化学系, 助教 (50533577)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 炭素間距離の精度向上 / 新規解析方法の考案 / 多スピン系での問題点 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、固体NMRによる非晶質物質の構造解析を可能とするために、固体NMRで得られる炭素13原子間の距離情報の精度の向上を目指す。 平成28年度4月から9月までは、炭素13原子間の距離の解析に必要となる解析式の導出、求める変数を減らすために出来るだけ実測から得られる情報を用いて解析を行う解析方法の考案、粉末試料での計算に用いる粉末積分を出来るだけ計算の最後に行う、とい計算方法の改善を行った。また、解析式の導出の過程において、3スピンフリップーフロップという現象が3つ以上の炭素原子を炭素13原子で標識した試料では、炭素13原子間の距離情報の精度を下げているという問題点が見つかった。平成28年度9月から11月では、セリン、ロイシン、グリシン、アラニン、バリンの5つのアミノ酸に対して本研究で考案した解析法を用いた解析を行った。この解析では、解析式による計算結果と実測が全てのアミノ酸で良い一致を示すことが分かった。また、距離の精度に関しては、2つの炭素原子を炭素13原子で標識したセリン、ロイシン、グリシンでは高い精度で距離が得られるが、3つ以上の炭素原子を炭素13原子で標識したアラニン、バリンでは精度が下がることが確認され、精度の原因が上記の3スピンフリップフロップであることが示された。また、この問題点の克服のための1つの炭素原子を炭素13原子で標識し、その炭素原子と他の炭素原子との距離を求める、という方法の考案を行った。平成28年11月に、以上の内容を第55回NMR討論会での口頭発表で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、固体NMRによる非晶質物質の構造解析を可能とするために、固体NMRで得られる炭素13原子間の距離情報の精度の向上を目指す。 平成28年度の研究により、本研究で考案された新規解析法により、2つの炭素原子を炭素13原子で標識した試料(2スピン系試料)では高精度で炭素原子間距離を得られた。また、解析式の導出の過程から発見された3スピンフリップフロップという現象により、3つ以上の炭素原子を炭素13原子で標識した試料(多スピン系試料)では、精度が下がることが実測と計算の比較により示された。現在は、この問題点の克服のためには、1つの炭素原子を炭素13原子で標識した試料(1スピン系試料)、他の天然存在比の炭素13原子との距離を解析するという方法を考えている。 考案した解析方法により、2スピン系試料では炭素原子間距離の精度を上げることに成功したので、初年度の目標は達成したと考えている。しかし、2スピン系試料は複数の炭素原子間距離を求めるのに適した試料ではない。今後は1スピン系試料を用いることで、標識炭素原子と他の天然存在比の炭素原子との複数の炭素原子間距離を求めるための解析を行う。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、固体NMRによる非晶質物質の構造解析を可能とするために、固体NMRで得られる炭素13原子間の距離情報の精度の向上を目指す。 平成28年度の研究により、本研究で考案された新規解析法により、2つの炭素原子を炭素13原子で標識した試料(2スピン系試料)では高精度で炭素原子間距離を得られた。また、解析式の導出の過程から発見された3スピンフリップフロップという現象により、3つ以上の炭素原子を炭素13原子で標識した試料(多スピン系試料)では、精度が下がることが実測と計算の比較により示された。 2スピン系試料では1つの炭素原子間の距離しか求められない、多スピン系の試料では、距離の精度が下がる、という問題がある。これらの問題点の克服のためには、「複数の組み合わせの2つの炭素原子を炭素13原子で標識した、2スピン系試料の集合」のような試料が必要であると考えた。1スピンの炭素原子のみを炭素13原子で標識試料(1スピン系試料)では、他の炭素原子は天然存在比の1%ずつしか試料中に存在しないため、試料中に「標識炭素原子と他の炭素原子のうちの1つの炭素原子」のみが炭素13原子となっている分子が1%ずつ存在することになる。このような1スピン系試料を用いれば、問題の原因である3スピンフリップフロップを起こさず、精度の良い解析が可能となる。また、求められる炭素原子間距離も、標識炭素と他の天然存在比の炭素原子との組み合わせを全て求められる。上記の内容に基づき、平成29年度では1スピン系試料の解析を行う。
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Causes of Carryover |
平成28年度の研究により、本研究で考案された新規解析法により、2つの炭素原子を炭素13原子で標識した試料(2スピン系試料)では高精度で炭素原子間距離を得られた。また、解析式の導出の過程から発見された3スピンフリップフロップという現象により、3つ以上の炭素原子を炭素13原子で標識した試料(多スピン系試料)では、精度が下がることが実測と計算の比較により示された。現在は、この問題点の克服のためには、1つの炭素原子を炭素13原子で標識した試料(1スピン系試料)、他の天然存在比の炭素13原子との距離を解析するという方法を考えている。 上記のような理由のため、平成28年度では多スピン系の試料の購入を取りやめた。また、平成29年度で新たに1スピン系試料の購入が必要になると考え、平成28年度で取りやめた分を平成29年度に繰り越すことにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度では、受託合成による1つの炭素のみを標識したペプチド試料を購入する予定である。現在は、どのようなペプチドが解析に適しているか、等の検討を行っている。
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