2017 Fiscal Year Research-status Report
非晶質試料の構造解析のための固体NMRによる炭素間距離決定法の開発
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16K17850
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
大橋 竜太郎 金沢大学, 物質化学系, 助教 (50533577)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 原子間距離 / 固体 / 微結晶粉末 / 分子構造 / 解析精度向上 |
Outline of Annual Research Achievements |
難溶性の非晶質試料は、X線結晶構造解析や液相での核磁気共鳴(NMR)での解析が困難であるため、粉末の測定が可能な固体NMRによる構造解析法が研究されている。これまではおおまかな距離情報を数多く集めることでタンパク質やアミロイドβなどの構造解析が行われてきたが、測定の分解能の低い試料やオリゴペプチドなどの小さい分子では距離情報の数が少なく従来の方法での解析は難しい。今後固体NMRによる構造解析の適用範囲を拡げるためには、炭素間距離の精度向上が必須である。 固体NMRによる従来の炭素間距離の解析方法は2つの炭素からなる1つの炭素間距離を求める場合には有効であり、高精度な炭素間距離を求めることが出来た。しかし、3つ以上の炭素を標識した試料(多スピン系試料)で複数の炭素間距離を同時に求める場合は精度が著しく低下する。 本研究課題では、距離の精度向上のために固体交換NMRの炭素間距離から信号強度を求めるための解析式を導出した。この解析式により計算される信号強度と実測値とを比較することで炭素間距離を解析し、直接結合している2つの炭素に対し、表1のように文献値に対して±0.01 nm 以下の高精度な距離の解析に成功した。 次に多スピン系試料で精度が低下する原因について考察した。その結果、その原因を回避するためには炭素1つだけを炭素13標識すれば良い事が分かった。実際に L-Valineのカルボキシ基のみを炭素13標識した試料を用いて、カルボキシ基とその他の炭素との距離を解析したところ、0.15 から 0.39 nm までの範囲で±12 % 以下の誤差で炭素間距離を求めることができた。 この誤差と得られた最大の距離はこれまでに報告された中で最も良い例と同程度の誤差である。ただし、本研究の手法の方が弱いラジオ波で測定できるために試料への加熱が少なく、生体分子へ適しているという利点がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
固体NMRによる従来の炭素間距離の解析方法は2つの炭素からなる1つの炭素間距離を求める場合には有効であり、高精度な炭素間距離を求めることが出来た。しかし、3つ以上の炭素を標識した試料(多スピン系試料)で複数の炭素間距離を同時に求める場合は精度が著しく低下する。 そのため、本研究課題の最初の2年では、多スピン系試料から得られる炭素間距離の精度向上を目的として研究を進めた。 まず、多スピン系試料で精度が低下する原因について考察した。その結果、その原因を回避するためには炭素1つだけを炭素13標識すれば良い事が分かり、実際に L-Valine を用いた解析で高精度な炭素間距離を求めることが出来た。次年度の目的を達成できたので、「おおむね順調に進展している」と判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度の L-Valine 解析では、長い炭素間距離を求めるためには当初の予測よりも多くのデータ数が必要となることが解析の過程で明らかとなった。このため、同じ L-Valine のデータをさらに追加し、より高精度な炭素間距離を求めることを目指す。次に、L-Leucineや微結晶化が可能なオリゴペプチドの炭素間距離の解析を行い、より長い距離に本研究の手法が適用できることを示す。 さらに微結晶化が困難なオリゴペプチドにも本手法を適用し、得られた炭素間距離を用いた構造解析を行う。
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Causes of Carryover |
次年度使用額分(602円)が少額であるため、適当な使用用途が見つからなかったため、繰越とした。 次年度では、当該金額を固体NMRの実験を行う予定の物質・材料研究機構(つくば市)への試薬の送付に用いる。
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Research Products
(1 results)