2017 Fiscal Year Research-status Report
複雑な分子系のダイナミクスを簡潔に記述する集団座標の解明
Project/Area Number |
16K17852
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
河合 信之輔 静岡大学, 理学部, 准教授 (90624065)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 分子動力学 / データ解析 / 熱ゆらぎ / 非平衡統計力学 / 集団座標 / 溶媒分子ダイナミクス / 生体高分子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は,多数の分子からなる複雑な系において,本質的な少数の自由度を見出して理解することを目的として研究を遂行している。初年度は,射影されたデータを解析するための基礎理論の構築と,適用例としてのNaCl水溶液に関する研究を進め,イオンペア周囲の多数の水分子の動きがわずか3個で代表できることなどを見出した。 この結果を受け,本年度はNaCl水溶液における3個の環境モードの分子的意味を理解するための系統的なデータ解析を遂行した。合わせて,申請書に記載したとおりに,より基本的な系である液相中での溶質分子の拡散挙動について本研究の手法によって解析し,分子的描像を考察した。また,申請書記載のDNA分子の折れ曲がり運動のダイナミクスの研究にも着手した。 NaCl水溶液中における水分子の運動モードとして見いだされた3個の実効的自由度について,水分子の密度など分子的描像を得やすい物理量との相関を解析した結果,3個のうち1個のモードについては,その挙動の8割程度がNaCl周囲の水分子密度のゆらぎで説明できることが分かった。より正確には,NaClイオンペアの外側にある水分子による「かご効果」と呼ばれる作用と,NaとClの間で「橋掛け」をしている水分子の効果を重み付きで足し合わせたものであることが明らかになった。一方で,このモードの残り2割程度と,他2個のモードについては,水の密度のような従来言われている物理量では表現しきれないことも明らかとなり,その分子描像の解明は今後の課題である。拡散挙動の解析についても同様に,従来から使われている単純な物理量では溶媒の影響を記述しきれないことが見出された。 DNA分子の折れ曲がり運動のダイナミクスの研究にも着手し,前処理的な解析として独立成分分析による解析を遂行し,折れ曲がり運動と伸縮やねじれの運動が相互作用している様子を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度の実施状況報告書に記載した,見いだされた環境モードと分子座標データとの相関の解析を,予定通りに遂行した。少なくとも3個中1個のモードについて,その8割程度を分子的描像で説明できたこと,他のモードについては従来の直感的な物理量では記述として不足であることが明らかになったことは,ともに有意義な成果であると言える。 また,申請書に記載した,溶媒分子の拡散運動の解析とDNA分子の折れ曲がり運動の解析も順調に遂行した。拡散運動については,イオンペアダイナミクスの場合と同様に水分子の密度等との相関を解析し,従来の直感的な物理量では不足であることを見出した。DNA分子の折れ曲がり運動においては,6種類の塩基対ペアについて変形モード間の相互作用を解析した。独立成分分析を用いて互いに独立に運動するような変形モードを抽出した結果,折れ曲がりとDNAらせんの捩れ角,塩基対間の距離の伸縮,糖の5員環の変形が組み合わさって運動している様子が明らかになり,異なる塩基対の間の比較から,このような変形モードを生じる分子内相互作用を明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
溶媒の実効的環境モードの分子論的描像として,従来の直感的な物理量では記述として不足であることが判明したことを受け,より広範囲の物理量によるフィットを試みる。具体的には,溶媒分子の運動はより大きな時間スケールで起こっている可能性を考慮し,時間スケールを粗視化した記述による環境モードの解析を行なう。溶媒分子の多体的な相互作用の効果や,ネットワーク的構造が効いている可能性についても検討する。 DNA分子の構造変化については,さらに統計を良くするためのシミュレーションの遂行と,本研究の中心的手法である一般化ランジュバン方程式の枠組みを用いた解析を実行する。
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