2016 Fiscal Year Research-status Report
分子スピンバルブと非弾性トンネル電子分光の第一原理計算
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16K17855
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
大戸 達彦 大阪大学, 基礎工学研究科, 助教 (90717761)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 第一原理計算 / 量子輸送計算 / 非弾性トンネル電子分光 / スピンバルブ |
Outline of Annual Research Achievements |
非弾性トンネル電子分光(IETS)シグナルは、電流-電圧(I-V)曲線の2階微分に比例し、電極間を架橋する分子の振動エネルギーに相当する電圧にピークまたはディップを持つ。従来の手法では、印加電圧ゼロの状態で計算した電子-格子相互作用を用いてIETSを計算(ゼロバイアス近似)しており、通常計算に用いられる貴金属電極ではフェルミ準位近傍の電子状態に変化が少なく、この近似が良く成り立っていた。しかし強磁性電極ではd電子が部分的にしか占有されておらず、フェルミ準位近傍で状態密度が激しく変化する。電極の電子状態と相互作用する分子軌道も、それに応じてフェルミ準位近傍で大きく変化する状態密度を持つようになる。こうした状況で正しいIETS強度を計算するためには、印加電圧に依存する電子-格子相互作用を求めることが必要となる。 初年度の研究では、SMEAGOLプログラムに電子格子相互作用定数の計算とIETSの計算を実装し、電子格子相互作用の電圧依存性を近似的ではあるが評価することを可能にした。射影分子軌道法も併せて実装し、分子軌道描像による物理量の評価も可能とした。 射影分子軌道法については、アルゴリズムの一部を派生させて分子フラグメント間の飛び移り積分を計算するようにし、SIESTAプログラムに実装した。このプログラムを用いて分子ワイヤーの移動度を計算し、この結果を論文として出版した。なお、この方法で計算した飛び移り積分の値よりも最高非占有軌道(HOMO)とHOMO-1の差から計算した飛び移り積分の方がわずかに実験をよく再現したため、本プログラムは論文中には用いていない。しかし、値が近かったことから、ヘテロなワイヤーなど別の局面に本プログラムを応用できると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度においてプログラムの開発を完了し、関連論文も一本出版できたたことから、おおむね順調に進展していると判断できる。 一方でスピンバルブの計算においては、収束の問題で若干の遅れが生じている。電極が金の場合はスムーズに進む伝導計算であっても、電極をNiに変更した場合に進捗が非常に遅くなるケースが見られる。収束を改善するためのパラメータ設定条件を早く見つけることが課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
非弾性トンネル電子分光については、来年度中に応用計算を行う。 スピンバルブの計算についても、収束を加速できるパラメータを見つけ出し、結果を出していきたい。収束に引き続き問題があるようであれば、分子構造を収束するものから漸近的に変化させて様子を見るなど、解決に向けた計算を補助的に行う。
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Causes of Carryover |
当初は計算機を購入する予定であったが、プログラム開発を先に優先して行い、次年度にプログラムに適した計算機を購入することとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
計算機を購入する。
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