2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K17856
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Research Institution | Hiroshima City University |
Principal Investigator |
齋藤 徹 広島市立大学, 情報科学研究科, 助教 (80747494)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 半経験的分子軌道法 / 開殻分子 / 金属酵素 / QM/MM MD |
Outline of Annual Research Achievements |
金属酵素のように大規模かつ活性部位に軌道が擬縮退した複雑な電子状態を持つ分子(開殻分子)が触媒する反応を理論計算を用いて解明することを目的とする。大規模系の計算を低コストで実行する方法としては、反応中心を量子化学(QM)計算、周囲の場を分子力学(MM)計算で扱うQM/MM法と分子動力学(MD)法とを組み合せたQM/MM MD計算が必須となる。QM/MM MDを実行するためには、膨大な計算量と計算精度の両問題を克服する必要があり、本研究ではQM計算として半経験的分子軌道(SE-MO)法、特に全ての主族元素及び遷移金属に対応したPM6法に着目している。PM6法は通常の酵素の計算には有用であるが、金属酵素のような開殻分子系に適用した研究報告はほぼ皆無である。既存のパラメータが開殻分子系に対応しておらず、電子状態・分子構造が正確に求まらないためである。また開殻分子系は参照となりうる高精度計算のデータが乏しく、パラメータの改善が困難である。 本研究では、これまでに開発してきた手法や知見をもとに、開殻分子系に対応したPM6のパラメータの調整・最適化を行い、QM/MM MD計算を金属酵素による物質変換反応への適用を目指している。当該年度は基本的な元素である水素、炭素、窒素、酸素、リン、イオウのパラメータ設計を完成させ、様々な有機ジラジカル分子の電子状態計算、構造最適化に対して有用であるかを検証した。その結果、第一原理計算の非制限型密度汎関数理論(UDFT)と同等の計算精度を数千分の一の計算時間で再現できた(学会発表済、論文投稿済)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要で述べたように、基本的な4元素(水素、炭素、窒素、酸素)及びリン、イオウのパラメータを最適化することにより、金属酵素を構成するアミノ酸や開殻分子となりうるフラビン補酵素の計算が可能となった。得られたパラメータを使った計算精度について、様々な一重項ジラジカル分子、ニトロニルニトロキシドといった磁性分子に対しても有用であることを示すことができた。また、通常の閉殻分子に対しても計算精度を損なわずに熱力学的諸量、物性パラメータを算出できることも確認した。したがって、当初計画したパラメータの設計指針通りに進められていると言える。これらの成果は既に学術論文誌(2報)、国内学会(3件)、国際学会(2件)で報告済であり、また現在学術論文誌に投稿中である。したがって3年間の研究の初年度としては順調な進捗状況にあると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
金属元素に関してもそれぞれパラメータを最適化すれば良く、現在は銅、マンガンを中心に精力的に最適化を進めているところである。金属元素のパラメータ設計が完成次第、ターゲットとしている金属酵素のQM/MM MDシミュレーションに着手する予定である。
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Causes of Carryover |
国際学会の参加登録費の為替レートによる変動などが原因であると考えられる。次年度は綿密に計算しながら使用したい。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
旅費に組み込む。
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