2017 Fiscal Year Research-status Report
sp3炭素を中心に有する湾曲π共役化合物の合成と機能開発
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16K17867
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
鶴巻 英治 東京工業大学, 理学院, 助教 (00772758)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | アントラセン / ケトン / 酸化的縮環 / 螺旋型芳香族 / 転移 / 多環式芳香族 |
Outline of Annual Research Achievements |
アントラセン骨格を基本とする新規π共役分子の構築を種々検討した。当初予定していたお椀型アントラセン3量体の骨格構築を進め、その合成中間体として得られるジ-1-アントリルケトンに対し、1-アントリルリチウムを用いてさらにアントリル基の導入を試みた。しかしながら、立体的に混雑したカルボニル炭素へのアントリル基の付加は進行せず、アントラセンの2位で付加が進行したと考えられる生成物が得られた。そこで合成ルートを変更し、ジ-1-アントリルケトンの部分的な縮環を施し、カルボニル基の立体環境を変えることとした。 塩化鉄を用いる酸化的縮環反応を検討したところ、アントラセンの9位同士で縮環が進行した螺旋型のπ共役構造を有するビアントリル誘導体が選択的に得られた。その一方、アントラセンの4位に電子供与基であるメシチルオキシ基を有するジ-1-アントリル誘導体についても同様の縮環反応を試みると、予想外にカルボニル基の転移を伴う二重縮環が進行し、フェナレノペンタフェノン骨格を有する新規なπ共役化合物が主生成物として得られた。 本反応は置換基の有無で反応の位置選択性が変わり、それぞれ新規なπ共役系を有する化合物を与えるという特徴的な反応であり、π共役化合物の化学に重要な位置づけとなる反応であると考え、以降は本反応の適用範囲と構造決定、反応性の検討に重点をおいて研究を進めた。それぞれの新規骨格分子はNMR、MS、およびX線結晶構造解析により構造決定を行い、分光学測定や電気化学測定、およびDFT計算により基礎物性を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アントリル基を有するジアリールケトンに対する酸化的縮環反応について予想外の反応性を見出し、その結果、これまで構築が未開拓であった2種類の新規π共役化合物の合成に成功した。螺旋型構造を持つ新規化合物は[5]ヘリセンに類似した構造を持つが、カルボニル基を含む7員環をそのヘリカル骨格に含むことから、[5]ヘリセンに比べて大きな歪みを有し、螺旋型キラリティに由来する高い機能性を期待できる。一方、カルボニル基の転移を伴う二重縮環は酸化的縮環反応の化学において例の少ないカルボニル置換基の転移機構が見られ、近年活発に研究が進められている酸化的縮環を用いる多環式芳香族の構築に重要な知見と成ると考えられる。得られた生成物はそれぞれ、種々の分光測定やX線結晶構造解析によって構造決定が完了しており、それぞれの反応の反応機構の検討も順調に進んでいる。さらに得られた新規π共役化合物の反応性の検討も進めており、有機金属反応剤を用いる求核付加によってπ共役系が変化する挙動も見出している。
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Strategy for Future Research Activity |
ジ-1-アントリルケトンの酸化的縮環反応に関して、これまで見出された結果をまとめ、論文として発表する。続いて、新規に構築に成功した螺旋型の縮環二量体に焦点を当て、そのアントラセン骨格の10位に対する求電子置換や、カルボニル基に対する求核剤の付加などを種々検討する。これによりπ電子系に摂動を加え、得られた化合物の物性を明らかにすることで、構造と物性の相関を明らかにするとともに、多量体や超分子的相互作用による集合体など、さらなる高次構造への展開を試みる。合成した新規化合物について有用な基礎物性が見出された場合は、円偏向発光の解析や伝導度の測定など、分析化学の専門家との共同研究を積極的に行い、その化合物の魅力をさらに広く探っていく。
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Causes of Carryover |
本研究の遂行中に、予期せず新しい魅力的な反応が見つかり、その化学の展開にも手を拡げる事とした。新たに展開する研究の進展に合わせて、有機合成研究に必要なガラス器具や試薬の購入をより柔軟に対応する必要があるため、若干の額を次年度使用として残すこととした。 次年度使用額分は今年度の研究の進行具合を総合的に判断しつつ、ガラス器具や試薬などの消耗品の購入に充てる。
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Research Products
(10 results)