2016 Fiscal Year Research-status Report
錯体色素を用いた気体を可視化できる固体発光の機能創成と塗料化
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16K17881
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Research Institution | Seikei University |
Principal Investigator |
西川 道弘 成蹊大学, 理工学部, 助教 (60711885)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 酸素 / 錯体 / 色素 / 発光 |
Outline of Annual Research Achievements |
気体中の酸素分子や一酸化炭素分子などの濃度は鉱山や深海など過酷な環境の調査にきわめて重要である。また食品に用いられる材料、例えば真空パック中などの酸素濃度は食品衛生管理に重要である。酸素や一酸化炭素の濃度は、これまで電子機器による数字を用いたセンサーが実用化されている。しかし硬く使い捨てしにくいなどの特徴も有している。もし酸素濃度や一酸化濃度を色により視覚化できる塗料をつくることができれば、使い捨てでき曲げることもできかつ絵や字を書くことができる材料を世の中に提案できる。 金属錯体は有機物と金属イオンのハイブリッドであり色素として用いられている化合物も多い。発光性の金属錯体の材料はセンサー、色素増感太陽電池、発光デバイス、光触媒系への応用が研究されている。一価の銅イオンにジイミンとジホスフィンという特殊な有機物が結合した銅一価錯体は紫外線を照射すると可視光の発光を示すことがよく知られている。また申請者はフッ素原子を20個有する銅一価錯体は、特徴として酸素を可視化(以後視覚化と表記する。)できる固体発光を示すことを発見した。金属錯体の発光は長寿命でかつ三重項励起状態由来である。通常酸素があると発光は弱くなり酸素がないと発光は強くなることがよく知られているが、溶液中など流動性の高い媒体である必要があった。溶液中の場合にはネルギー移動でこの現象が起こることがよく知られている。 申請者は銅一価錯体の合成、発光特性、電気化学特性などの研究を十年間自らの手を動かし行ってきた。近年申請者は錯体の固体粉末で酸素分子による発光の消光現象を示すきわめて珍しい化合物の合成に成功した。これらの原料を変更することでバリエーション豊富な化合物群を作製しその機構を解明する研究を行った。また塗ると気体中の酸素濃度を視覚化できる塗料の開発の研究も行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね順調に研究は進行している。新規銅一価錯体についてカラーバリエーションにとんだ酸素を視覚化する固体発光を示すことを明らかとしその一部を査読付き学術論文に発表した。NMRや元素分析、吸収スペクトル、発光スペクトル、発光寿命の測定およびDFT計算からこの固体発光の性質も同時に発表した。発光強度が明確に酸素濃度に応じて0.1秒以内に変化することがわかった。この化合物の粉をふりかけると、紫外線ランプ下において、酸素が含まれる大気であるのか含まれない真空下であるのかを目視で瞬時に確認することができることを示した。アルゴン下でも同様の発光増強がみられた。三座配位子の金属錯体の固体発光について酸素だけでなく一酸化炭素への応答性を調べる実験を行った。錯体の固体粉末を染料または顔料として塗料の開発を検討する実験を行った。続いて購入した示差走査熱量計を用いて分析を行い興味深い結果を得た。この分析法を銅一価の発光性錯体に用いた例は少ない。化合物は同じ化学構造式でもその並び方がランダムであるアモルファス、規則正しく並んでいる結晶などがあり、同じ結晶でも並び方が異なる結晶多形が存在する場合がある。食品の味や口どけの違いなどにはこれらが重要である。言い換えると化学構造式では判別できない固体の状態の差を熱分析により判定できる。酸素を可視化する固体発光を示す錯体について、よくすりつぶした固体粉末とすりつぶしをしていない固体粉末を比較すると200度付近にみられるシグナルの有無に違いが認められた。さらに高温にすると分解したと解釈可能な信号が観測された。また化合物も製法も同じ固体粉末については有意な信号の差は認められなかった。このことから、NMRや元素分析ではまったく見分けることができなかった固体粉末の状態を熱分析により見分けることができたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も計画通り研究を進めていく。雰囲気制御装置を取り付けることでアルゴン下および大気下の分析をすでに行い現在データを精査中であるため、この詳しい解析を行う。次に蛍光顕微鏡の購入を行い結晶一粒の酸素を可視化する固体発光がどのようになっているのかを観察する。紫外線による励起が可能であり数十倍から数百倍に拡大した結晶の発光の様子を観測する。またこの様子を顕微鏡用デジタルカメラにより撮影することで結晶のサイズや形を考慮にいれながら酸素を視覚化する固体発光の研究を行っていく。固体粉末の量が百万分の一グラム程度のごく少量でも視覚化できるかでもまた精密に気体中の酸素濃度を制御した窒素ガスを購入し、その雰囲気で発光の測定を行う。これにより発光の強度や寿命から検量線をひき、未知試料の酸素濃度を目視により判定できる固体粉末の研究を行うことができる。つまり固体発光の色や強度から気体中にどのくらいの量の酸素があるのかを判定できることを示す実験を行う。固体粉末だけでなく数mg以上の結晶を得る実験を行う。これはゆっくりと時間をかけて固体を析出させる条件を検討することで新規化合物の大きな結晶を得たのち、単結晶X線構造解析の結果とも合わせてさらなる機構解明を行う。これにはもし結晶溶媒が結晶中に取り込まれた場合酸素分子が中に入り込んで発光を消光する現象になんらかの影響を与えると考えられる。これらの錯体の固体を塗料にする配合条件についても研究を行う。これまでにアラビアゴムとグリセリン中に合成した発光性色素である新規化合物の固体粉末を混ぜて水彩絵の具を作成し塗料とした。有機溶剤に展色材と研究室で開発した発光性色素を混合することで紙などに固着させてインクとして用いることができる配分比を探索していく。また亜麻仁油などは油絵に用いられておりこれも試みる。染料として用いて布にしみこませ酸素を視覚化することも試みる。
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Causes of Carryover |
前年度使用額の大部分を占める示差走査熱量計を用いてアルミセルに合成したサンプルを入れて標準サンプルであるアルミナを入れたセルと同じ温度にするための熱量を測定した。いくつかの化合物について200度から300度の間まで加温して分析を行った結果、当初の予定よりはるかに少ない実験数で期待以上の結果が得られた。本研究は示差走査熱量計の測定だけでなく、様々な観点からこの現象の機構解明と機能創生を行っていくことを目的としている。例えば蛍光顕微鏡による結晶一粒による酸素を視覚化する固体発光についても行う予定である。また酸素濃度を正確に定めた気体を得ることは実験的に高い実験技術が要求される可能性がある。得られた固体を用いて塗料をつくるためには、色素であるサンプルが多量に必要であることも判明した。これらの点を解決するための試薬や実験用消耗品の購入のためにぜひ次年度に使用したいと考えた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
以下のように使用する計画を立てている。紫外線により可視光に発光を示す錯体色素の結晶を拡大して観察することができる蛍光顕微鏡により結晶一粒の発光を画像撮影するために必要となる機器や実験用消耗品を購入する。観察する箇所にアルゴンガスを吹き付けたりポリエチレンなどの素材で顕微鏡観察ステージをアルゴン雰囲気下にしたりするためのチューブや実験用消耗品に使用する。数百ミリグラム以上の錯体色素を合成するために必要な試薬や実験用消耗品に使用する。合成のために用いる原料の試薬や溶媒だけでなく、精密な発光特性の分析に必要や測定用の試薬や溶媒に使用する。酸素を可視化する固体発光の機能を用いてより新奇な現象へとするための材料や分析のために使用する。溶媒分子蒸気による応答性のために蒸気をあてやすいガラス器具や溶媒の購入に使用する。酸素濃度が正確な気体を購入し実験を行う。
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Research Products
(3 results)