2017 Fiscal Year Research-status Report
低~高分子までの生理活性化合物の精密合成を実現する水中反応の開発
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16K17902
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
渡辺 賢司 九州大学, 薬学研究院, 特任助教 (90631937)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 水中反応 / 生体共役反応 / チオール / ベンジリック位水酸基 |
Outline of Annual Research Achievements |
均一水溶液中における、種々のアレーン及びヘテロアレーンのベンジリック位水酸基とチオールとのベンジリック位置換反応を検討した。水中におけるベンジリック位水酸基の脱離を促進することを期待し、ボロン酸など種々のルイス酸を添加剤に用いて反応を検討したが、目的の水中反応は進行しなかった。一方、塩酸などの酸性度の高いブレンステッド酸を添加すると、目的のベンジリック位チオール化反応が、一部の基質の組み合わせにおいては進行することが分かった。しかし、強酸性条件では不安定なタンパク質などの生体高分子に反応を適用することは難しく、より穏和な弱酸性条件(pH 4.5ー6.4)で進行する基質の設計を行った。その結果、種々の3ーインドリル(ヒドロキシ)アセテート誘導体(1)が、pH 5.4のリン酸緩衝水溶液中でチオールを含むペプチドやタンパク質と良好に反応することが分かった。基質1はチオール非存在下においても、アミノ基、イミダゾール基、水酸基、カルボキシ基やリン酸アニオンとは反応せず、チオール選択的な生体共役反応のプラットフォーム分子として利用できることが分かった。また、種々の基質1の構造と反応性との相関、反応次数などの速度論的解析、及び計算化学を用いた反応中間体の予測などについて検討を行い、より穏和な条件で進行する反応性に優れた基質設計の為の今後の指針を得ることができた。本研究の基礎的な成果について論文発表を行うことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
弱酸性条件(pH 4.5ー6.4)においてチオール選択的に進行する生体共役反応の開発に成功した。本反応は従来のチオールを標的とするハロアルカンのSN2求核置換反応(反応条件, pH 7.5ー9.0)やマイケル付加反応(反応条件, pH 6.5ー7.4)などといった生体共役反応と比べて反応の至適pHが異なる。弱酸性pHで反応を行う利点は、1)チオールのジスルフィドへの空気酸化が起こらない点や、2)アミンやイミダゾールなどの他の求核剤との競合が起こらない点が挙げられる。また、本反応を用いて、インスリンやトリプシンなど中性や塩基性pHでは不溶または自己加水分解により不安定なタンパク質の弱酸性条件での修飾にも成功した。 有機溶媒中で進行するベンジリック位置換反応は通常、カルボカチオン中間体の生成が律速となりSN1型の1次反応を示す。興味深いことに、本反応について速度論的解析を行った所、基質(ベンジリックアルコール)とチオールの両方に1次の反応次数が観測された(計:2次反応)。本反応はベンジリックアルコール側も反応次数を持つ点が、従来の系とは対照的であった。一方、基質の構造と反応性との相関を検討した結果、より安定なカルボカチオン(イミニウムカチオン)を生成する基質ほど反応性が高いことが分かった。カチオン中間体と水溶液中に大過剰に存在する水分子との平衡がこのような反応次数や反応機構に影響を及ぼすことが推測されるが、明確な機構については不明な点が残っている。
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Strategy for Future Research Activity |
酸性条件において不安定なタンパク質に対しても反応の適用範囲の拡大を図りたい。これまでに得られた反応に関する基礎的な知見を踏まえ、より中性に近い穏和な条件においても迅速に反応が進行する、反応性に優れた基質の設計及び合成を行いたい。計算化学を活用し、生成するカチオン中間体の構造や電子状態の予測に基づき分子設計を行い、ファインチューニングされた基質の合成を行う。また、反応機構については、水中及び無水有機溶媒中での対照実験を行い、水分子が反応に及ぼす影響などについて検討を行いたい。 生体内は通常、中性pHに保たれているが、エンドソームやリソソーム、癌細胞周辺などの一部の器官や領域では弱酸性pHを示し、本反応は様々な応用が期待できる。最適化された基質を用いて、特定の細胞のレセプターと結合するタンパク質やチオール含有ペプチドへの本反応の適用を検討したい。また、本反応と他の生体直交型反応を組み合わせ、タンパク質やペプチドへの種々の機能性分子を導入するプラットフォーム分子として応用できることを実証したい。
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Causes of Carryover |
これまでに得られた知見に基づき基質の最適化の為の有機合成実験を行う。その際、合成に必要となる試薬、溶媒、ガラス器具などの各種試薬及び消耗品の購入の為、物品費の支出の増加が見込まれる。また、特定の細胞やレセプターと結合するタンパク質やペプチドなど比較的高価な試薬の購入が予想され、物品費の支出の増加が見込まれる。また、平成30年度より研究代表者の所属研究機関が九州大学から理化学研究所に移った。各種実験を行う際、pHメーターなど小額備品(50万円以下)などの購入が見込まれている。各支出項目が全体の9割を超えないように配慮し、計画的に予算を執行予定である。
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Research Products
(4 results)