2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K17904
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
中澤 順 神奈川大学, 工学部, 助教 (70550888)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ニッケル錯体 / 錯体合成 / アルカン酸化 / 過安息香酸 / 立体選択性 |
Outline of Annual Research Achievements |
Ni(tpa)錯体が、mCPBAを酸化剤とするアルカンの酸化反応に対して触媒活性を有することが報告されている。本研究では既報の各種配位子に加えて、立体障害基を導入したTOA配位子を用いてNi活性種近傍の立体障害を調節し、複雑な立体構造を有する基質に対する立体選択的なアルカン酸化活性を評価する。 【項目1 新規錯体触媒の合成と構造決定】Ph側鎖を有するTOA-Ph配位子についてアニオンの異なるNi錯体 [Ni(X)(TOA-Ph)](Y) (X=OAc, Cl, NO3, mCBA; Y=BPh4, BF4) を合成したが、構造決定には成功していない。一方で、t-Bu側鎖を有するTOA-tBuを合成し、そのNi錯体 [Ni(Cl)(TOA-tBu)](BPh4)の構造決定に成功した。本研究の新たな触媒種の展開として、中心金属にFe、Co、Cuイオンを有するTOA-Me2錯体を合成し、構造決定することができた。 【項目2 単純な基質であるシクロヘキサンに対する酸化活性の評価】前年度のTOA-Me2、tpa、Tp配位子を有するNi錯体に加えて、ToおよびTOA-Phを有するNi錯体を追加した。この中でもTOAの錯体が最も反応速度が速かった。これら錯体を用いて、アダマンタンおよびメチルシクロヘキサンの酸化に対する触媒活性を評価した。立体障害の大きいメチルシクロヘキサンの三級炭素の水酸化はどの錯体においても進行しにくく、錯体種ごとの明確な差異も見られなかった。もう少し分子サイズの大きな配位子または基質を適用してみる必要がある。これら結果については錯体化学討論会等にて発表し、さらに現在学術論文として投稿準備中である。 【項目3 複雑な基質を用いたアルカン酸化活性の評価】平成29年度より立体選択性の評価を開始していく予定であったが、分析上の問題点等がいくつか見つかり、現在改善中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
【項目1 新規錯体触媒の合成と構造決定】Ni(TOA)錯体において、当初予定である様々な立体障害基を導入したTOA配位子を合成する計画は、配位子および錯体の合成が進んでいるものの、構造の決定に至らない錯体があるため、少し遅れ気味である。よって次年度も継続的に遂行する。しかしながら代替策として、TOA-Me2配位子やTPA配位子を有するニッケル以外の中心金属を有する錯体の合成および構造決定が大きく進展したため、新たな研究展開に繋がっている。 【項目2 モデル小分子を用いたアルカン酸化活性の評価】昨年度までの単純なTOA配位子、tpa配位子、Tp配位子を有する各種Ni錯体に加えて本年度はTo配位子やTOA-Ph配位子を有するNi錯体についても、シクロヘキサンを用いた基本条件における活性およびアルコール選択性の差異を評価できている。本年度さらには立体障害基を有するTOA配位子のNi錯体について同様の活性評価を実施する予定であった。しかしこれらNi錯体の構造決定が遅れていることから、評価は進んでいない。一方で本年度に単純なTOA-Me2配位子を有する他の金属種の錯体が合成出来たことから、これらの反応性を探索したところ、銅錯体の活性は低かったものの、鉄錯体が良好な活性を示すことを見出した。この検討は当初の計画には含まれていないものの、今後の触媒反応開拓における重要な知見が得られた。 【項目3 複雑な基質を用いたアルカン酸化活性の評価】当初の計画では本年度より複雑な基質の酸化活性の評価を開始していく予定であったが、分析方法の若干の問題点が浮かびあがってきた。方法の一応の改善が見られてきたため、最近評価を開始したところである。この項目に関しては遅れが大きいため次年度に大幅な推進を図る。
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Strategy for Future Research Activity |
【項目1 錯体触媒の合成と構造決定(新しい配位子の探索)】本年度に成功した[NiCl(TOA-tBu)]錯体の構造決定では、金属近傍の立体障害が小さかった。そこで反応の立体選択性制御を向上させるため、TOAを基本骨格として金属活性種の近傍により大きな立体障害基が配向するような配位子を設計合成していく。またTOA-Me2配位子およびTo配位子を持つ鉄、コバルト、および銅錯体を本年度に合成できたため、次年度はこれら金属の錯体についても配位子の立体障害制御に取り組む。 【項目2 モデル小分子(シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンおよびアダマンタン)を用いたアルカン酸化活性の評価】本年度において実施する予定の、多様な立体障害基を有するTOA配位子の錯体合成および活性評価が遅れている。次年度はまず、最近構造決定できた[NiCl(TOA-tBu)]錯体の活性評価を早急に実施する。さらに、より立体障害の大きな錯体合成を進めて、モデル小分子を用いて反応の位置選択性の評価を推進する。 【項目3複雑な基質を用いたアルカン酸化活性の評価】遅れているものの、当初の計画に従って、調製できている錯体触媒から順に複雑な構造を有する基質を用いた触媒的酸化反応を実施し、生成物の立体選択性に対する結果を蓄積していく。 【新たな展開】当初の計画から離れた展開であるが、本年度に合成した[Fe(Cl)(TOA-Me2)]錯体が高い反応性を示したことから、この錯体を用いてmCPBAだけでなくH2O2などの様々な酸化剤を用いたアルカン酸化触媒系の開拓を推進する。
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Causes of Carryover |
(理由)平成28年度の計画の遅れによって、28年度分の消耗品費の使用が約190千円少なかったものの、平成29年度は当初申請していた直接経費700千円に近い額を使用した。よって、前年繰り越し分がそのまま次年度(平成30年度)へ繰り越される。 (使用計画)当初より計画していた実験を平成30年度も引き続き遂行する。さらに繰り越し分の約220千円の物品費は新たな展開(TOA配位子を有する鉄、コバルト、銅の合成と酸化触媒活性評価)の実験に供する原料試薬およびガラス器具費として平成30年度に使用する。
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