2016 Fiscal Year Research-status Report
高分子精密合成に基づく機能性界面の創製:血液適合性高分子の新設計
Project/Area Number |
16K17917
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
織田 ゆか里 九州大学, 工学研究院, 助教 (20625595)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 高分子界面 / 機能性高分子 / 血液適合性 / 走査プローブ顕微鏡 / 表面濃縮 / 分岐型高分子 / ハイドロゲル |
Outline of Annual Research Achievements |
水界面機能の高度に制御された高分子材料の開発には、その界面における構造・物性を分子レベルで理解し、これに基づく精緻な分子設計・精密合成が必要不可欠である。本研究では、オキシエチレン側鎖を有するポリビニルエーテル(POEVE)が形成する特異な水界面に着目し、血液適合性高分子の精密合成を検討することを目的としている。これまで、オキシエチレンスペーサーの長さや側鎖置換基の異なる種々のPOEVEを精密合成し、POEVE界面を創製した。POEVEは室温で粘稠体であるため自立膜を作製することが難しく、分子設計上の工夫を行った。 まず、POEVEが表面に選択的に濃縮する系を設計するため、POEVEの末端にメタクリル酸エステル基を有するマクロモノマーをリビングカチオン重合により合成し、これをメタクリル酸メチル(MMA)とリビングラジカル共重合することで、POEVE鎖を有する分岐型ポリマーを合成した。得られた分岐型ポリマーはPMMAとのブレンド膜中においてエントロピー的な寄与に基づき空気界面に選択的に濃縮した。界面に濃縮した分岐型ポリマー中のPOEVE部は、水中において効果的にタンパク質吸着を抑制することを明らかとした。 また、POEVEに架橋構造を導入した製膜も検討した。架橋型POEVE膜は、側鎖にラジカル重合性ビニル基を有するモノマーと親水性OEVEとの共重合体を基板上に製膜した後、紫外光を照射することで調製した。共重合比を変化させることで、架橋密度、ならびに水中における膨潤挙動や表面弾性率の制御されたPOEVEハイドロゲル薄膜を調製した。ハイドロゲル薄膜の膨潤挙動ならびに表面弾性率はプローブ顕微鏡測定に基づき評価した。さらに、得られたPOEVEハイドロゲル薄膜の表面は効果的に血小板の粘着と活性化を抑制した。その抑制挙動は膜の膨潤挙動や表面弾性率と深く相関することを明らかとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は、1)一次構造を明確に規定したオキシエチレン側鎖を有するポリビニルエーテル(POEVE)をリビングカチオン重合により精密合成し、POEVE薄膜を調製すること、2)これを水に浸漬させた際の界面における分子鎖凝集状態とダイナミクス、界面近傍における膨潤状態ならびに水の凝集状態を検討することを計画していた。 その結果、1)においては、分岐構造や架橋構造を有するPOEVEを設計・合成することで、計画通りにPOEVE薄膜やPOEVE界面の調製を達成した。さらに、2)における、これらを水に浸漬させた際の界面構造・物性は、X線光電子分光測定、和周波発生分光測定、走査型プローブ顕微鏡観察に基づき評価した。高分子の一次構造やハイドロゲル薄膜の架橋密度との相関を検証した。さらに、得られたPOEVEハイドロゲル表面における血液適合性を、血小板粘着試験に基づき評価した。その結果、血小板粘着挙動(粘着量・活性化度)は、POEVEハイドロゲル薄膜の架橋密度、ひいては水中における膨潤挙動、表面弾性率と深く相関することを明らかとした。POEVE界面における構造・物性と血液適合性との相関を検討することは、当初は平成29年度に予定していた課題であり、この点が計画以上に進展した理由である。 一方、誘電緩和測定に基づくバルクの分子鎖熱運動特性評価と、蛍光色素を用いた系での、蛍光寿命測定ならびに蛍光偏光解消測定に基づく水界面における分子鎖熱運動特性のレオロジー解析は、今後も継続して検討する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、(POEVE/水)界面における静的・動的構造、物性解析を継続し、高分子の一次構造・分子形態との相関を体系化する。擬平衡状態における界面の構造、膜厚方向における密度分布を中性子反射率測定に基づき評価する。ここでは、液体に重水素標識を行う。また、バルクおよび界面における分子鎖熱運動性を、誘電緩和測定ならびに蛍光色素を用いた蛍光寿命測定・蛍光偏光解消測定に基づき評価する。さらに、POEVE表面の血液適合性評価を行い、これらを包括的に考察する。膜表面における血液適合性は、全血より分離した多血小板血漿を用い、その粘着挙動(粘着量、活性化度)を、走査型電子顕微鏡観察に基づき評価する。 平成28年度から継続して得られた知見を包括し、血液適合性高分子の設計指針を提案する。得られる知見を基に、新規機能性界面を設計・創製する。界面濃縮挙動を駆使し、血液適合性界面を創製する界面改質剤を精密合成する。また、膨潤挙動にある高分子鎖はシリカ微粒子に拘束されることが報告されている。そこで、これまで得られたPOEVE薄膜の表面に、インクジェット描画法を用いてシリカ微粒子を配列制御することで、水中における鎖ダイナミクスの二次元パターニングを検討する。さらには、これまで得られた知見を基に、分子鎖ダイナミクスパターニングによる生体分子の二次元配列制御を検討する。
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