2016 Fiscal Year Research-status Report
光の力で分子を選り分け精製するプラズモニック分子分離・結晶化法の開発
Project/Area Number |
16K17922
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
東海林 竜也 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 講師 (90701699)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | プラズモン / 光圧 / 顕微分光 / 光ピンセット / 温度応答性高分子 |
Outline of Annual Research Achievements |
共鳴光励起したプラズモニックナノ構造体近傍に局在化する増強電場にナノ粒子が接近すると、ナノ粒子には光の力である「増強光圧」が作用しナノ粒子をナノ構造体上に捕捉できる。このプラズモン光ピンセットは、分子のサイズや形状、光物性などの分子物性が捕捉挙動に反映される可能性が極めて高い。そこで本研究では、プラズモン光ピンセットを駆使したプラズモンによる分子分離・精製法を確立することを目指す。これまでに申請者らは、温度応答性高分子の光捕捉を実現した。水溶性温度応答性高分子のポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)は、溶液温度が32℃以上になると脱水和し、凝集する性質を有する。申請者らは、このPNIPAMをプラズモン光ピンセットにより捕捉することで、プラズモン励起領域内に脱水和したPNIPAMの高分子集合体を形成した。この高分子集合体を用いることで、水溶液からプラズモン構造体上へと有機分子を分離することに成功した。この成果は、学術誌(Analytical Chemistry)に速報として発表した。 このような間接的な分子分離を直接的な分子分離へと昇華するためには、増強光圧とともに発生する熱泳動現象を理解し、増強光圧と熱泳動を組み合わせることで実現性の高い手法になると期待できる。そこで、平成28年度に、新たに熱泳動現象の支配因子であるソーレ係数を決定するための顕微分光装置を開発した。本装置を用いることでプラズモン光ピンセットも実現できる。以上の成果を、国際学会6件(内 招待講演2件)、国内学会6件で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の実験計画は主に、(1) プラズモン光ピンセットに基づく分子捕捉、(2) 有限要素法を用いたプラズモン分子捕捉挙動の理論的検証、(3) 高分子・分子のプラズモン分離操作、であった。 このうち、1に関しては、捕捉対象物の探索と作成からスタートし、現在までに色素ナノ粒子の合成を達成した。また、ポリスチレンナノ粒子に色素を担持することで効率的なプラズモン光捕捉を達成できると期待できる。2に関して、有限要素法によりプラズモンナノ構造体上での電場増強度を見積ることに成功している。この増強電場に粒子を設置し、定量的な光圧の見積が期待できる。3に関して、非共鳴条件における温度応答性高分子の光捕捉を実証している。光捕捉により形成した高分子集合体を用いることで、溶液中の有機分子を高分子集合体中へと分離・抽出することに成功している。 以上のことから、限定的ではあるが計画に沿った成果が得られたものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度では、プラズモン光ピンセットによる結晶促進化を実現することを目標とし、研究を推進する。計画を実現するため、以下の実験計画を立案する。 1.光捕捉した高分子集合体を用いた、分子分離の実現:温度応答性高分子を光捕捉すると水溶液中に溶解していた有機分子が分配抽出され、高分子集合体中で有機分子の高濃度相が実現できる。この現象を更に発展させ、有機分子を選択的に濃縮、分析する手法を開発する。 2.プラズモン光ピンセットにおける熱泳動現象の定量的理解:新たに作成した顕微分光装置を用いて熱泳動の支配因子であるソーレ係数を見積る。熱泳動がプラズモン光ピンセットに有利に働くよう、最適な溶液条件を探索する。 3.プラズモン光ピンセットによる分子捕捉・結晶化の実証:高分子や生体分子などの分子系の光捕捉に挑戦する。プラズモン励起領域内において光捕捉により分子が濃縮される。これの原理に基づき、結晶化条件を満たす溶液を用いてプラズモン励起した場合としていない場合での生成する結晶数を比較し、プラズモン光捕捉により結晶化が促進されることを明らかにする。最終的に結晶化条件を最適化することにより、プラズモン光捕捉から結晶が生成されるまでの一連の過程を顕微ラマン分光法を中心とした各種顕微分光法を駆使して追跡し、プラズモン光ピンセットによる結晶化メカニズムの解明に挑戦する。
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Causes of Carryover |
平成28年度において、学会発表旅費および装置開発に主に使用した。研究を進めていく上で、必要に応じて研究費を執行したため当初の見込み額と執行額は異なったが、研究計画から大幅に変更することなく成果を挙げることができた。前年度の研究費も含め、次年度の研究計画を進めていく。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度において、新たに顕微分光装置を独自開発した。研究を進めていく中で、さらなる装置の拡張が予想されるため、次年度に執行する。さらに得られた研究成果の学会発表および論文執筆の諸経費に計上する。
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Research Products
(16 results)