2017 Fiscal Year Research-status Report
絹フィブロインの紡糸プロセスにおける吐糸直前の構造転移の解明
Project/Area Number |
16K17957
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
鈴木 悠 福井大学, テニュアトラック推進本部, 講師 (90600263)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | シルクフィブロイン / 構造転移 / 固体NMR |
Outline of Annual Research Achievements |
カイコの紡糸プロセスは、流動とずり圧力のみで絹フィブロイン水溶液から瞬時に高強度・高弾性な絹糸が作られる。高度に最適化されたカイコの紡糸プロセスを理解し、材料開発に活かすためには、カイコ体内における絹フィブロインの構造転移を明らかにすることが不可欠である。本研究では、構造転移が起こる場である、前部絹糸腺および圧糸部での絹フィブロインの立体構造解析を進めている。前部絹糸腺はカイコから得られる飼料がごくわずかなため、微量試料で固体NMR測定が可能な超高速MAS1mmプローブを用いて前部絹糸腺の固体13C CPMAS測定を行った。その結果、今年度は試料管が安定に回転し良好なスペクトルが得られた。スペクトルを解析した結果、AlaCbのメインピークは19.4ppmで中部絹糸腺・後部絹糸腺とほぼ同じ化学シフトであったが、21.6ppmに新規ピークが観測された。さらに、AlaCOピークでも、178.5ppmに加えて176.5ppmに新規ピークが観測された。これらのピークは、化学シフトからβシート構造由来であると推測され、前部絹糸腺で一部βシート構造が形成されていることがわかった。 しかし、1mmプローブは試料体積当たりの感度は良いものの試料が極微量のため、通常のプローブ(直径3.2mm)に比べ13Cの感度が十分でなく、炭素核の安定同位体ラベルが必要であることが明らかになった。そこで、カイコ飼育において2gの人工飼料に200mgの13C-glucoseを混ぜ、5齢3,4日にそれぞれ与えた。熟蚕のカイコを解剖し絹糸腺を取り出して絹糸腺とセリシンを除去し、フィブロイン柱を乾燥させて固体13C NMR測定を行った。その結果、ノンラベル液状絹と比較して10-12倍の感度を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度、固体NMR超高速1mmプローブが回転不良となり、メーカーによる調整が必要になったため、1mmプローブ測定を行うことができなかった。今年度は測定を行うことができ、1mmプローブを用いて回転速度70kHzで前部絹糸腺の固体13C CPMAS NMR測定を行った。そして、中部・後部絹糸腺では観測されなかった新規ピークが観測され、前部絹糸腺においてフィブロインが一部βシート構造を形成しているという知見を得ることができた。 しかしながら、前部絹糸腺は中部絹糸腺に比べ絹糸腺内腔に存在するフィブロイン量に対する絹糸腺組織の量が各段に大きいため、フィブロイン由来のピークと絹糸腺由来のピークのオーバーラップが激しく、一部のフィブロイン由来ピークにおいて、帰属や詳細なピーク波形の評価を行うことが困難であった。さらに、1mmプローブは極微量試料で測定可能な反面、得られるスペクトルの感度が低く、測定にかなり時間が掛かってしまった。これらの問題をクリアするため、カイコ育成時に安定同位体ラベルグルコースを与えることでフィブロインを13Cラベル化する実験を行った。安定同位体ラベル試料を与える時期・期間・量の最適化を図る必要があり、その実験に時間を費やしたため、予定よりも研究の進捗は若干遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
1mmプローブを用いて安定同位体ラベルを施した液状絹の測定を行い、前部絹糸腺中のフィブロインの構造解析を進める。また、固体NMR測定で用いるマジック角回転(MAS)下において試料管内にかかる遠心力を用いて、液状絹が繊維形成する際の構造転移を評価する予定である。
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Causes of Carryover |
本課題では、固体NMR装置の超高速MAS1mmプローブを使用しカイコが吐糸する直前の微量絹フィブロインの構造解析を行うが、極微量試料測定のため通常のプローブに比べ感度が低く、絹糸腺内の絹フィブロインの詳細な構造解析を進めるには、絹フィブロインの13C安定同位体ラベルの最適化が必要であることが本年度の研究から明らかとなった。そこで、次年度に繰り越し研究を行う。絹フィブロインを13C安定同位体ラベルするために、Bombyx moriカイコ幼虫、カイコの人工飼料、13C-U-glucose等の試薬の購入を計画している。
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Research Products
(4 results)