2016 Fiscal Year Research-status Report
イオン性高分子が発現するマクロな材料物性とイオン凝集体のミクロな特性の相関解明
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16K17958
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
三輪 洋平 岐阜大学, 工学部, 准教授 (10635692)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | アイオノマー / ガラス転移温度 / イオン / ポリエチレン / 電子スピン共鳴 / 小角X線散乱 / 引張り試験 / エラストマー |
Outline of Annual Research Achievements |
疎水性のポリエチレン(PE)主鎖中に少量のカルボン酸金属塩を含有したイオン性高分子であるPEアイオノマーは、強靭性に優れた熱可塑性エラストマーであり、ひろく工業的に利用されている。このイオン性官能基が、疎水性かつ柔軟なPEマトリックス中で直径1~2ナノメートルの微小な凝集体を形成し、これが物理架橋点として作用していると考えられている。一方で、このイオン凝集体のミクロスコピックな特性とPEアイオノマーのマクロスコピックな材料特性の具体的な関係はいまだに不明確である。本研究では、電子スピン共鳴法によって得られるイオン凝集体まわりの局所的なガラス転移温度(Tg)の分布と、PEアイオノマー材料の延伸特性の相関解明をおこなった。 まず、約5.4 mol%のメタクリル酸を有し、その約60 %をナトリウムで中和したPEアイオノマーに関して、イオン凝集体のイオンコア部分のTgが約46 ℃であり、さらにイオンコア部分のまわりには約1ナノメートルの厚さを有するTgが室温以上のガラス状態の層が存在することを明らかにした。一方で、このPEアイオノマーに対して10 wt%のラウリン酸(LA)を溶融混練した場合、イオンコア部分はTgが約37 ℃でガラス状態であるのに対して、イオンコアまわりのTgは室温以下であった。このLAを溶融混練したPEアイオノマーは、LAを添加していないものと比較して、1.2倍程度の大きな伸びを示し、また、破断応力は約0.6倍まで低下した。さらに、延伸過程における構造変化を小角X線散乱によって観察したところ、LAを混練した場合にのみ、延伸方向に対して平行な方向へのフィブリル構造の形成が観察された。これは、イオンコアまわりのTgが室温以下である場合には延伸過程でイオン凝集体によって形成された物理架橋点が崩壊し、分子鎖の配向が起こるためだと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年目に予定していた、低分子化合物の添加がイオン凝集体のミクロ特性とマクロな材料特性に与える影響に関する研究を先に進めており、結果は極めて順調である。イオン凝集体のミクロな特性と、アイオノマー材料のマクロな延伸特性の相関を具体的に示すことができている。さらに、低分子化合物の添加によって高分子分子鎖の配向特性に大きく違いが出ることを発見し、具体的な材料設計の提案につなげられると期待している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの結果より、イオン凝集体のミクロな物性とアイオノマーのマクロな材料特性を具体的に明らかにすることができている。とくに、イオン凝集体の局所的なガラス転移温度が、マトリックス高分子のガラス転移温度を変えたり、もしくは極性の低分子化合物を添加したりすることによって具体的にコントロールできることを見出している。今後は、さらに積極的に、イオン凝集体のミクロ特性のコントロールによる新規特性材料の設計法の確立を目指す。
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Research Products
(9 results)