2016 Fiscal Year Research-status Report
有機EL素子における光取出し効率向上を目指した究極の分子配向秩序の実現
Project/Area Number |
16K17972
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
小簑 剛 九州大学, 分子システムデバイス国際リーダー教育センター, 助教 (20547301)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 分子配向 / 熱活性化遅延蛍光 / 有機EL / 角度依存PL測定 / ゲスト分子 / 光取出し / ガラス転移 |
Outline of Annual Research Achievements |
H28年度は、主として、ホストおよびゲスト分子の選定と、ゲスト分子の配向評価を行った。 ホスト分子には、一般的な有機EL材料であるCBP、mCBP、TPBiを用いることとした。一方のゲスト分子には、長い棒状の構造をもつ熱活性化遅延蛍光 (TADF) 材料であるCis-BOX2を用いた。TADF材料は、高い発光効率 (EL外部量子効率など) を示す素子の作製に有用である。当初予定では、ゲストの選定に分子動力学 (MD) 計算を用いることを想定していたが、いくつかの分子についてMD計算を行ったところ、分子の長さが長いほど水平配向に有利であることが自明であることを見出した。そこで、MD計算を省略し、既知の分子の中で『長い構造をもつ分子』を選ぶこととした。Cis-BOX2は既知のTADF材料の中でもっとも長い棒状構造をもつ。 角度依存光励起発光測定によりCis-BOX2の分子配向を計測した結果、以下のことが明らかとなった。①Cis-BOX2の配向は、用いるホスト分子の種類に依存し、CBPを用いた場合に最も高い配向秩序を示す。②Cis-BOX2の配向は、蒸着中の基板温度が低いほど高い配向秩序を示す。(温度範囲は200~300 K) ①と②を考慮して、Cis-BOX2をCBPにドープし、200 Kの基板温度で製膜したところ、すべてのCis-BOX2分子が基板に水平に配向した薄膜を得ることに成功した。 上の結果を受けて、年度を前倒しにして有機EL特性の評価を行うことにした。6wt%-Cis-BOX:CBP薄膜 (200 K成膜) を有機ELに応用したところ、最大EL外部量子効率33.4±2.0%を得た。この値は、緑色TADF分子としては世界最高レベルである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
H28年度の研究結果から、本研究課題の目的 (以下の①および②) を達成することができたと考えるためである。 ①ゲスト分子の完全配向: 200 Kの基板温度で蒸着することにより、ゲスト分子であるCis-BOX2をCBPホストマトリックス中にドープした薄膜を成膜したところ、すべてのCis-BOX2分子が基板水平方向に配向した究極の分子配向秩序を実現することに成功した。 ②完全配向による40±1%のEL光取出し効率の達成: 33.4±2.0%のEL外部量子効率を達成した素子構造について光学モード解析を行うと、EL光取出し効率は36-39%と算出される。このEL光取出し効率とCis-BOX2の内部量子効率 (82.5%) から計算すると、最大のEL外部量子効率は30-32%となり、実測値とほぼ一致する。計算値が実測値よりもやや低い値となったのは、マイクロキャビティ効果による内部量子効率の増大 (実際には遷移速度の向上) による影響と考えている。逆説的に捉えれば、光学モード解析の結果はほぼ正確であると言える。すなわち、40±1%の到達目標に対して、36-39%のEL光取出し効率が達成されたことになる。数値に不確定要素や誤差が含まれるものの、『39%のEL光取出し効率』が達成された可能性を考慮すれば、このことから、②の目標も達成されたと言える。 他方、40±1%のEL光取出し効率の達成に関して、まだ、研究課題を進める余地があると考える。具体的には、光学モード解析では、EL光取出し効率が36-39%となっており、H28年度中に考慮した素子構造を修正することで、さらに高いEL光取出し効率 (40%以上) を達成し得る可能性がある。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の完成度を高めるために、以下のことについて研究を推進する。 ①40%以上のEL光取出し効率への挑戦: H28年度の結果から、光学モード解析に水平配向性の効果を問題なく取り込めることが分かった。そこで、完全配向を前提として、EL光取出し効率を向上させるための素子構造を探索する。H28年度は、ITO(100)/ホール輸送層(30)/発光層(30)/電子輸送層(40)/LiF(1)/Al(100)の素子構造を用いた。ここで、括弧内の数値は膜厚 (nm) である。この素子構造は、近年の有機の構造に照らすと簡単な構造となっている。換言すれば、素子構造を複雑にすることで、EL光取出し効率をさらに向上できる可能性がある。そこで、光学モード解析を用いて、材料、層数、膜厚について再度の最適化を行う。 ②水平配向と分子構造の知られざる関係性の認識: H28年度は、TADFに分類される材料の中で、Cis-BOX2以外のいくつかのゲスト分子についても分子配向評価を行った。その結果、特定の骨格を有する材料は、分子構造やガラス転移温度からは量れない配向秩序を示す可能性を見出した。ここ数年、水平配向による30%を超える高いEL外部量子効率が相次いで報告されているにもかかわらず、高い分子配向を示す材料の分子骨格については統一された見解が得られていない。そこで、当該の化合物群に集中して、ホスト分子の種類・蒸着中の基板温度・ゲスト分子の濃度をパラメータとし、これらのパラメータが水平配向性に与える影響を調べる。すなわち、水平配向性を実現する上で有用な分子骨格がどのようなものであるかを考えながら、水平配向と分子構造の知られざる関係性を探る研究を展開する。
|
Causes of Carryover |
水平配向を調べるための実験 (角度依存PL測定) が、当初計画よりも少ない実験量で済ませることができたためである。これは、想定よりも早く完全な水平配向が達成されたことによる。具体的には、角度依存PL測定に用いるガラス基板やシリコン基板の購入量を当初計画よりも少量に抑えることができた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究当初の想定よりも早く成果を上げることができたことが、次年度使用額が生じた理由の遠因になっている。そこで、このことを考慮しつつ、次年度使用額を有効に利用するために、当該の予算を研究成果の発表に使用する。具体的には、国内学会または国際学会の参加に用いることを予定している。
|