2016 Fiscal Year Research-status Report
光電子収量分光法を応用した、励起準位エネルギーの大気下計測手法の開発
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16K17975
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
細貝 拓也 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 分析計測標準研究部門, 研究員 (90613513)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 有機半導体 / 励起準位 / 光電子放出 / イオン化ポテンシャル / 二光子吸収 / ペンタセン |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は研究課題のスタートとして、大気中または実デバイス環境下で試料からの光電子放出量がフェムトアンペアからの精度で計測可能な超低ノイズ小型真空測定室、光源として150ピコ秒のパルス幅を持つNd:YAGパルスレーザの第3高調波、二光子を時間的に分割するための光学遅延システム、さらに光電子放出量の計測プログラムの開発をそれぞれ推し進めた。それらを構築して光学定盤上に組み込むことで、遅延時間を最大2ナノ秒まで変調可能な二光子光電子放出計測システムのプロトタイプを完成させた。これを用いて、典型的なp型材料として知られるペンタセン(C22H14)薄膜を試料として、ビームスプリッタを用いて二つに分離した3.49 eVのパルス光を異なる遅延時間で試料に照射し、ペンタセン薄膜中の励起状態からの光電子放出の観測に挑戦した。その結果、二つのパルス光の時間的な重なりに依存して光電子放出が二乗で増大すること、さらにその重なりから時間的に離れた条件において励起三重項準位から一光子吸収に由来する光電子放出を示唆する結果を得られた。この結果は、本測定が原理的に試料の励起一重項状態と三重項状態を分離してそれぞれの光電子放出閾値エネルギーを見積もることができることを期待されるものである。以上の成果を査読付き国際誌で報告[T. hosokai, et al., Appl. Phys. Exp. 10, 022401 (2017).]するとともに、国内外の学会において公表を進めた。同時並行で、自然科学研究機構の計算科学研究センターの計算課題に申請し、次年度で計測の対照とする熱活性型遅延蛍光分子の励起準位の計算も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定していた計測装置のプロトタイプの構築を終了し、また実験試料を用いた本手法を適用することで提案する実験手法の原理の確立を進めるとともに、論文化も行った。また、次年度に向けての試料の励起準位の計算もおおむね終了している。
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Strategy for Future Research Activity |
研究課題の最終となる次年度は、提案実験手法の骨子となる二光子光電子収量スペクトルの計測システムの立ち上げを行う。まずは、光源として用いているパルスレーザを透明光学素子に集光して、自己位相変調による連続光の発生に挑戦する。発生した連続光を光学フィルターまたは分光器によって分光し、光エネルギーの関数として励起状態にある実験試料からの光電子収量スペクトルを測定することが本装置の目指すところである。もし、サブナノ秒パルスレーザの連続光が発生しない場合は、フェムト秒の超短レーザの連続光を用いる。後者に関しては、光強度が強いために試料ダメージが予想されるが、これは減光フィルターを工夫して用いることで対策する。装置完成を確認後は、様々な熱活性型遅延蛍光分子薄膜に当手法を適用して、励起一重項や三重項準位からの光電子放出閾値を見積もることで、それぞれの準位のエネルギー絶対値を決定する。それらのエネルギー差が一重項や三重項状態の光化学反応の性質と効率を定める。得られたエネルギー差を昨年度から進めている分子軌道計算の値と比較することで、熱活性型遅延蛍光や励起子フィッション、アップコンバージョン過程において励起準位と化学反応の過程のエネルギー絶対値を主軸として既存のメカニズム考察の詳細に踏み込む。
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Causes of Carryover |
当該年度は計画に基づいて目的装置のプロトタイプを作製するために経費を使用したが、物品発注の一般競争入札の結果、見積もり金額より低下で購入できたため余剰金が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度は集光パルスレーザを用いるために、光学素子の焼き付きが起こる。初年度の余剰金は、この焼き付きによって発生する光学素子の交換代として使用することを予定している。
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Research Products
(3 results)