2016 Fiscal Year Research-status Report
水素脆化メカニズムに及ぼす応力速度効果と水素脆化特性の定量的評価手法の構築
Project/Area Number |
16K17976
|
Research Institution | Shonan Institute of Technology |
Principal Investigator |
大見 敏仁 湘南工科大学, 工学部, 講師 (90586489)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 水素脆化 / 疲労 / 数値解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
鉄鋼材料において材料中に水素が侵入することで発生する「水素脆化」現象は、未だにその原因が解明されていないが、材料中の水素濃度の局所的上昇により誘起されることが知られている。このため、応力誘起拡散現象と考えられる水素拡散凝集挙動を数値解析によって求める研究は多くなされているが、物資輸送論に基づく現象論的記述に関して深く考察を行った研究は少ない。申請者は、現象論的記述に着目し、応力解析にFEM・拡散解析にFDMを用いることで数値解の収束性や安定性を高めたプログラムを構築してきた。平成28年度は、このプログラムを基に数値解析の精度検討を行いつつ、水素拡散凝集挙動に及ぼす負荷速度特性を明らかにする研究を行った。 具体的には、加工硬化係数に関するひずみ速度依存性を応力解析に追加し、疲労条件での水素凝集挙動に及ぼすひずみ速度(周波数)依存性を明らかにした。この解析結果から、加工硬化のひずみ速度依存性が高い材料ほど、すなわち、ひずみ速度の影響が大きいほど、疲労負荷時の水素濃度が上昇することが確認された。解析結果から、この時の水素凝集挙動は応力集中部の再降伏現象及びその範囲と深く関わっていると考えられるため、引き続き様々な応力条件下での拡散凝集挙動を解析する必要があると考えられる。耐水素脆性の設計を考えるうえで、材料の静的物性値以外にも、動的特性を考慮する必要性を数値解析的に示したことは工学的に重要な成果であるといえる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
数値解析に関しては、当初の予定通りプログラムの改良と解析の実行を終え、結果を得ることができた。今後は様々な応力場での解析を実行し、予定通り研究を行い、解析結果をまとめられる見通しである。 一方実験に関しては、平成28・29年度に「小型試験片を用いた水素脆化試験」を予定していた。このうち、平成28年度は水素量計測のための試料作成と疲労試験の予備試験に当てていた。試料作成は予定通り完了したが、疲労試験の予備試験が当初の予定よりも遅れ気味である。また、水素チャージに必要な実験装置の整備にも遅れが出ていた。この実験装置の整備・調達には目途がついたので、今後実験を軌道に乗せることは十分に可能であると考えられる。また、疲労試験機を2台同時に使用できるようになったことも、今後の実験に好影響をもたらすと考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
数値解析に関しては、プログラムが完成しているため今後様々な応力場、具体的には負荷応力を変えて解析を実行することで、予定通りの研究を進められる予定である。解析のまとめにおいて、多軸応力を計算することでより簡便で設計に実用的な結果の整理方法を考慮していくことが課題となる。 実験に関しては、水素チャージ試験の安定的な実施を行うことで実験を軌道に乗せる。使用できる疲労試験機の数が当初の予定の1台から2台へと増えたことにより、疲労予き裂の導入試験と疲労の本試験を同時並行的に行える研究環境を整えられたので、実験実施のうえでの障害はなくなったと言って良い。今後は計画通りに実験を進められる予定である。
|
Causes of Carryover |
平成28年度に予定していた実験がやや遅れており、水素量の測定(外部機関への委託を予定)も遅れていることが大きな原因の一つに挙げられる。これに付随して、追加(予備)試験片の作成も29年度にずれ込んでいる。一方、共同研究により予備試験用の試験片を確保でき、予算の節約が可能となったことも大きい。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
実験が28年度から29年度へずれ込んだが、実験実施の目途が立ったので、水素測定に関する予算は予定通りの使用となると考えられる。 使用予定の疲労試験機が1台増えたため、この試験機用の試験結果保存出力装置を新調する必要が出てきた。これは予備試験用の試験片作成費用から充当できると考えられる。
|