2016 Fiscal Year Research-status Report
電場誘起型モット転移を用いた純電子的抵抗変化メモリの創製
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16K18073
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
福地 厚 北海道大学, 情報科学研究科, 助教 (00748890)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 抵抗変化メモリ / モット転移 / 酸化物薄膜 / 強相関電子材料 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年の不揮発性メモリの技術開発においては、集積性と省電力性において優位な抵抗変化型の不揮発メモリを用いる向きが盛んとなっている。一方で既報の抵抗変化型メモリでは、外部電場の印加による材料の化学的変質(欠陥移動及び酸化還元反応)を基に電気抵抗状態の書き換えが行われるために、実用化に向けてはその信頼性に原理的な弱点を持つ事が懸念されてきた。本研究ではこの問題の抜本的な解決を目指し、強相関電子系物質において近年実験的に見出された新現象である電場誘起型のモット転移を用いた、純電子的な動作原理を持つ新たな抵抗変化素子の創製を目指し研究を行っている。 電場誘起型モット転移は従来のモット転移に関する理論ではその発生を説明する事が出来ない現象であるため、本研究では新たに、材料の結晶構造及び微細構造が電場誘起モット転移の発現に強く影響しているとの予測を立て、材料の微細加工によるモット転移型メモリ素子の実現可能性を探索している。微細加工及びメモリ素子の作製のためには、電場誘起型モット転移物質の良質なエピタキシャル薄膜の作製が必要となる事から、本年度前半には電場誘起型のモット転移物質であるCa2RuO4とNi(S,Se)2の薄膜成長実験を実施した。また転移のメカニズムの解明とデバイス応用の実現のためには、電場誘起型モット転移物質に対する結晶構造と微細構造の詳細な評価が必要となる事から、その評価手法としてプローブ顕微鏡及び透過型電子顕微鏡を用いた電気特性と微細構造の同時評価システムを開発した。その結果、Ca2RuO4においてパルスレーザー堆積法により良質なエピタキシャル薄膜を作製する事に成功したとともに、プローブ顕微鏡・透過型電子顕微鏡測定システムの構築・改良についても年度内に完了し、数種の材料において抵抗変化と構造変化の同時観察を実証する事に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度での完了を目指していた(1)電場誘起型モット転移物質のエピタキシャル薄膜の作製と(2)プローブ顕微鏡・透過型電子顕微鏡による測定システムの構築の二項目については、いずれも年度内において達成する事が出来た。薄膜作製実験に関しては当初Ca2RuO4とNi(S,Se)2の二種類の物質での検討を行っていたが、実験の進捗に伴いCa2RuO4においてより良質な薄膜が作製可能である事が明らかとなった。パルスレーザー堆積法による各種製膜条件の最適化を試みた結果、作製したCa2RuO4薄膜においては、その電気特性において電場誘起型モット転移の発生を示唆する振る舞いを観測する事が出来た。この事から次年度以降は、Ca2RuO4薄膜に対する微細加工実験と特性評価実験へと移行する予定である。また測定システムの構築に関しても、数種類の酸化物材料において抵抗変化動作と構造変化の同時測定実験の実証に成功する事が出来た。Ca2RuO4薄膜への適用に関しては年度末時点では未実施であるが、測定用試料の調整が完了次第、Ca2RuO4に対する電気抵抗変化とプローブ顕微鏡像・透過型電子顕微鏡像の同時・リアルタイム測定の実施が可能である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に作製に成功したC2RuO4エピタキシャル薄膜に対して、電子線・光リソグラフィープロセスによる微細加工実験を実施する。またプローブ顕微鏡と透過型電子顕微鏡を用いた、抵抗変化時の構造変化の観察実験を実施する。試料の微細構造がモット転移に対して及ぼす影響、さらに電気抵抗変化時に試料内に発生する構造変化を評価する事で、電場誘起モット転移の発現メカニズムを明らかとするとともに、メモリ素子としての動作可能性を評価する。また本年度の研究を通して、Ca2RuO4薄膜におけるモット転移の振る舞いには、膜内におけるRu欠損とCaRuO3不純物相の存在が強く影響する事が示唆されており、一般的なパルスレーザー製膜においてはこれらの影響の完全な排除は困難であると考えられる。この事から来年度には、膜のさらなる純良化を目指し、固体化学的な手法を用いた新たな製膜手法の導入も同時に進行させる予定である。パルスレーザー製膜した試料と新手法で製膜したCa2RuO4薄膜の特性比較を実施し、Ca2RuO4における電場誘起モット転移のメカニズムについてより掘り下げて議論する。
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Causes of Carryover |
購入を予定していた加熱装置を使用しなくとも、良質な試料を製膜する事に成功したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
新製膜法の導入のための、高温用真空炉の購入費用に充てる。
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Research Products
(8 results)