2016 Fiscal Year Research-status Report
第一原理量子論によるSiC/SiO2界面形状と電子物性の相関
Project/Area Number |
16K18075
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松下 雄一郎 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (90762336)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | SiC / 第一原理計算 / 界面 / POCl3 / 酸化 |
Outline of Annual Research Achievements |
炭化ケイ素(SiC)は、その優れた物性から次世代パワー半導体材料として近年注目を集めている。SiCには熱酸化によりSiO2膜を作成することができるという利点があり、SiC-MOSFET (Metal-oxide-semiconductor field-effect-transistor) デバイスの作成に用いることができる。しかし、現在のSiC-MOSFETでは界面に存在する高密度界面準位により、そのパフォーマンスは理論値と比べ大きく劣る(例えば、移動度は理論値よりも二桁も劣る)。酸化の原子論的理解が重要な課題となっている。酸化現象そのものも極めて興味深い。炭素がどのように酸化中に消失するのかそのメカニズムや、酸化面方位によって酸化速度が十倍も異なる(ことが実験で知られているが、その)メカニズムの解明が待たれる。また、実際のデバイス開発では界面処理(NOやPOCl3処理)が行なわれているが、依然界面処理の有効性の微視的理解は得られていない。本年度は、大きく分けて3つのことに取り組んだ。①第一原理計算による酸化のメカニズム解明。その結果、Si面とC面とでは酸化経路が全く異なることを見出した。これは炭素の消失過程が面方位によって異なることに由来していることを見出した。また、界面に炭素関連欠陥が大量に存在している可能性を示した。②SiO2/SiC界面におけるSiC積層構造の違いとその電子状態への影響。界面におけるSiCの積層構造が界面状態に大きく影響を与えていることを明らかにした。これはこれまでの半導体で考えてこられなかった、積層欠陥由来の界面準位生成メカニズムの提案を行った。③第一原理計算と実験との共同研究によるPOCl3界面処理の微視的解明の解明。第一原理計算とSIMS実験との共同研究により、世界で初めてPOCl3界面処理の微視的解明に成功した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
良い計算環境を確保できたとともに、共同研究者の議論、さらには実験との共同研究により、同時進行的に多くのテーマを効率的に行うことができたことによる。これにより、SiCデバイス開発、さらには半導体基礎物理に極めて大きなインパクトを持つ研究成果を多数報告することができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究成果を踏まえ、今後以下の3つのテーマに取り組んでいく。①これまでの研究で、実験で行われているPOCl3の有効性の微視的理解を与えることができた。今後は、もう一つの界面処理法であるNO処理の有効性を考えていく。②界面におけるSiC積層構造が変わった際に、それがどの程度移動度に影響があるかを明らかにしていく。③SiO2膜中の欠陥に注目し、その電子状態・絶縁膜の信頼性にどう関係しているかを明らかにしてゆく。
|
Causes of Carryover |
該当年度は当初よりも、海外出張数が少なかったためである。それは、情報発信の割合を当初よりも小さくし、国内の共同研究を活発に行ったためである。主な出張先が国内の共同研究との打ち合わせであり、国内共同研究を活発に行った結果極めて斬新なインパクトのある研究成果が立て続けに出すことができた。次年度以降は、これら成果の世界への情報発信が重要となる。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度では、情報発信の割合を減らす一方で多くの研究成果を得ることができた。来年度は、これら新しい結果を世界に向けて発表する機会を増やす。国内外の出張費が当初の予定よりも増える見込みであり、それに充てると共に、大量のデータ整理を行うために人件費・謝金で研究補佐員を雇う。これにより、一層の研究速度向上を図る。
|