2016 Fiscal Year Research-status Report
強磁性絶縁体を用いたゲルマニウム中への純スピン流生成技術の開発
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16K18080
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
笠原 健司 福岡大学, 理学部, 助教 (00706864)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | スピントロニクス / 純スピン流 / スピン波 / ゲルマニウム |
Outline of Annual Research Achievements |
次世代スピンデバイスの創製には、ゲルマニウム(Ge)などの半導体材料中において高効率な純スピン流(電荷の流れを伴わない電子スピンの流れ)の生成が不可欠である。しかし、従来の強磁性体金属を用いた純スピン流の生成方法では、強磁性金属の低いスピン抵抗(純スピン流に対する電気抵抗のようなもの)に起因する純スピン流の逆流を抑制できないため、報告されている純スピン流の生成・検出効率は非常に低い値に留まっている[K. Kasahara et al. Appl. Phys. Express 7, 033002 (2014)など]。そこで、研究代表者は、スピン抵抗が半導体材料よりも十分に高い強磁性絶縁体中のスピン波(磁気モーメントの歳差運動の伝搬により形成される波動)を用いたGe中への高効率純スピン流生成技術の開発を着想した。 本年度は、有機金属堆積(MOD)法によりSiO2基板上に作製した強磁性絶縁体イットリウム鉄ガーネット(YIG)薄膜を用いて、スピン波の観測を試みるも、YIG薄膜の質が悪いためスピン波信号の観測に至らなかった。そこで、まずはYIG薄膜の高品質化を図った。その結果、YIGと整合性が良いガドリニウムガリウムガーネット(GGG)基板上に塗布したMOD膜に電子線照射し、高温で熱処理することで高品質なYIG薄膜を得ることに成功した。この成果は、現在、論文として執筆中である。更に、これまで導波路の強磁性材料にのみ依存すると考えられて来た静磁表面波の非相反性の強さが、デバイス構造にも依存することを明らかにした。[K. Kasahara et al., Jpn. J. Appl. Phys. 56, 010309 (2017).] 来年度は、この高品質YIG薄膜を用いてスピン波信号を観測した後、純スピン流観測用のデバイスを試作して、Geチャネル中への純スピン流生成・検出を試みる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
予備実験で作製したSiO2基板上のYIG薄膜では、そもそもスピン波信号を観測することができなかった。X線回折法などにより、SiO2基板上のYIG薄膜の結晶詳細に調べたところ、YIG薄膜は無配向の多結晶膜という質の悪い薄膜であることわかった。これがスピン波信号を観測できなかった最大の原因であると考えられる。本研究では、YIG薄膜中のスピン波を利用して純スピン流を生成することを目標としているため、まずはスピン波信号が観測できるような高品質なYIG薄膜を得ることを目標に研究を進めた。その結果、YIG薄膜と整合性が高いGGG基板を用い、更に電子線を照射することにより、基板に配向した高品質なYIG薄膜を形成することに成功した。磁化曲線から得られた飽和磁化と保磁力の値は、これまで報告されているYIG薄膜と同等の値が得られている。このYIG薄膜を用いれば、スピン波信号の観測が期待できる。この成果については、現在、論文を執筆中である。 一方、スピン波の中の一つのモードである静磁表面波は、その伝搬方向に対して信号強度が異なるという非相反性を有していることが知られており、これは自由なデバイス作製を阻害する要因となる。ごく最近、研究代表者は、パーマロイ導波路と励起アンテナの距離により静磁表面波の非相反性の強さを変化させることができることを発見した。これまでは、静磁表面波の非相反性の強さは、導波路の材料で決まるものと考えられて来たが、デバイス構造でもこれを制御できるということを示した非常に応用面で意義のある結果である。この結果は、Japanese Journal of Applied Physics誌に掲載され、高く評価を受けている。 以上のように、純スピン流を生成する前の準備段階における問題が発生しており、これらを解決するのに時間がかかっている。このような理由から達成度は4とした。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度前半は、まずGGG基板上に作製した高品質YIG薄膜を用いてスピン波信号の観測を試みる。既にスピン波信号検出技術を確立しているPy導波路デバイスを参考にして、スピン波信号観測用のYIG導波路デバイスを作製する。電子線リソグラフィー装置とAr+イオンミリング装置を用いて作製し、ベクトルネットワークアナライザによりスピン波信号の観測を試みる。来年度前半中にスピン波信号を観測した後、Geチャネル中への純スピン流生成・検出を試みる。Geチャネルの形成は、研究代表者が改良した金誘起層交換成長法を用いる予定である。[H. Higashi, K. Kasahara et al. Appl. Phys. Lett. 106, 041902 (2015).など] 検出用の電極は、当初の予定通り、スピン-軌道相互作用が強いPtを用い、逆スピンホール効果によって観測する。ここで、もし、いきなりGeチャネル中での純スピン流生成・検出が難しそうな場合は、スピン抵抗がGeよりもはるかに小さいCuやAlといった非磁性金属材料をチャネルとして用いることも視野に入れている。スピン抵抗が小さい材料の方が純スピン流の生成・検出が容易であると予想されるため、予めCuやAlなどの材料で多くの知見を得ておき、それらの知見をGeチャネルのデバイスに応用する。最終的には、Geチャネルを用いたデバイスにより、室温以上で励起したスピン波信号を反映した電圧変化をPt電極観測することで、強磁性絶縁体を用いたGe中での純スピン流生成技術の実証とする。
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Research Products
(7 results)