2016 Fiscal Year Research-status Report
水環境DNAを活用した迅速で網羅的な水生昆虫の流域内種多様性の解明
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16K18174
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
八重樫 咲子 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 特別研究員 (30756648)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 環境DNA / 水生昆虫 / メタバーコーディング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,従来の形態同定に基づく生物モニタリングにかわり,迅速かつ正確に水圏の生物多様性を明らかにする手段として,河川水中のDNAの次世代DNAシーケンシング解析から,水生昆虫の流域内種多様性を一気に網羅的に解析する技術を開発する.従来の生物モニタリングでは,未記載種・採取困難種,同定が困難な種の存在のため,正確な種数を定量することが難しい.そこで水生生物が水中に放出する環境DNAを用いて流域の種多様性を解明する.このDNAの効果的な「濃縮・抽出マニュアル」を整備し,大量のDNA塩基配列の解析を実現した「次世代DNAシークエンス分析」と,進化理論を応用しDNA配列のみを用いて機械的に種の境界を決定する「DNA種分類法」を利用して,容易かつ正確にすばやく水生昆虫の流域内種多様性を明らかにする. これまでに,水環境DNAの効果的な抽出方法を検討するため,多様な地点から採取した環境水を対象に,3種の消化酵素を用いてDNA抽出を行った.消化酵素はそれぞれ,環境水中に含まれる細胞の構成要素と考えられる脂質,タンパク質,糖質をそれぞれ分解する.これらの酵素を用いたDNA抽出を行い,DNAの濃度を測定して,最も効率の良いDNA抽出手法を明らかにした. また,重信川を対象に流域全土から採取した河川水の次世代DNA解析を行った.対象領域は昆虫網のCytochrome Oxidase I 領域を対象に,次世代シーケンサーでジェノタイピングし,DNAデータベースを利用して,河川水中に含まれていたDNAの由来となる種を明らかにした.その後,次世代シーケンス解析で得られた水生昆虫の科のDNA配列数と,標本採集で得られた個体数の関係性を明らかにした. 最後に,ダム湖など止水環境で増殖することが知られている藻類を対象に,環境DNAの流下距離を測定した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
まず,環境DNAの回収効率の検証を行った.河川水を複数地点から採取し,実験室で0.2umのメンブレンフィルターを用いて濾過した.その後,糖質,タンパク質,脂質をそれぞれ分解する酵素反応を2時間行い,フェノール・クロロホルム法によりDNAを抽出した.さらに,PCR阻害物質を除去するためにカラム精製を行った.最後に,2本鎖DNAの蛍光標識によりDNA濃度を測定した.その結果,タンパク質分解処理によるDNA抽出法で最も濃度が高くなることが分かった. 続いて,流域内水生昆虫群集の種多様性評価を行った.まず,ダム湖を含む流域複数地点で河川水と水生昆虫群集を採取した.次に河川水からDNAを上記の手法で抽出した.続いて昆虫を対象としたCOI領域のPCR増幅を行った.その後,MiSeqを用いた次世代シーケンス解析によるDNA塩基配列の解読を行った.最後に,DNAデータベースを活用して種名の検索を行った.ここで流域から得られた水生昆虫各科の個体数と,次世代シーケンス解析で得られたそれぞれの科の配列数の相関分析を行ったところ,有意な正の相関が見られた.これにより,環境水の次世代シーケンス解析により,流域に生息する水生昆虫種数とその生息数を推測することができる可能性が示された. 止水環境で増殖することが知られている藻類を対象に,水中に含まれるDNAの濃度を測定することで,河川水中の環境DNAの流下距離を測定した.まず,ダム湖とその下流域から河川水を採取し,前述の手法と同様に河川水を濃縮し,CTAB法でDNA抽出した.その後,M. aeruginosaを検出する定量PCRを行った.その結果,ダム湖から約3-7 km程度流下していることが判明した.本実験は2年目に予定されていたが,1年目に一部を実施した.そのため,当初の計画以上に進展していると評価した.
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に続き,水環境DNAの抽出効率の検証を行う.環境水中には由来となった生物の異なる雑多なDNAが含まれる.本研究ではDNA抽出時に異なる酵素を用いた.これにより,それぞれ異なる生物由来のDNAが抽出された可能性がある.そこで,DGGE法を用いて各抽出DNAに含まれる生物の多様性を評価し,より多様な種を検出できる手法を明らかにする. また,次世代シーケンス解析で得られた水生昆虫DNAデータから全水生昆虫DNAの配列間の系統関係を表す進化系統樹を構築する.そして,この系統関係を最も良く再現するPTPモデル(種分化-種内多型混合モデル)の系統分化速度を最尤推定し,系統樹内の種分化の境界年代を推定する.これによって導かれた種間の境界年代に基づいて,水環境DNAに含まれていた水生昆虫群集の種数を定量化する. 次に,流域内の250m河川区間ごとの流速・水深・水温の空間分布を,分布型流出水文モデルにより定量する.理論上,水環境DNAの流下距離がわかれば,対象種の生息域の下流側で検出されるその種の水環境DNA濃度の空間分布(流程分布)が推定できる.この原理を逆手にとり,河川水から検出された各DNA種の水環境DNA濃度の流域内の空間分布と,環境DNAの流下距離から全DNA種の流域内生息分布を推定する.
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Causes of Carryover |
一部の解析依託費,英文校正費,参考文献購入費,レンタカー借り上げ費などが想定よりも安価であったため.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
参考文献購入費,レンタカー借り上げ費,DNA解析用消耗品費として使用予定.
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Research Products
(4 results)