2016 Fiscal Year Research-status Report
超高層建物に対するスマート構造ヘルスモニタリングシステム手法の展開に関する研究
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16K18184
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
藤田 皓平 京都大学, 工学研究科, 助教 (40648713)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | システム同定 / 構造ヘルスモニタリング / 常時微動観測 / 曲げせん断型モデル / せん断型モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、超高層建物を対象としたスマートな構造ヘルスモニタリング技術の開発として、建物の損傷度の定量化を目的としたシステム同定法の構築を行った。本提案システム同定法では、建物の固有周期や減衰係数といったモーダルパラメターを同定するだけではなく、対象とする建物をせん断型モデル等の簡易な物理モデルに置き換えて、そのモデルの剛性や減衰係数といった物理パラメターを直接評価する。特に超高層建物では、建物の全体曲げ変形の影響が上層ほど顕著に表れるため、曲げせん断型モデルを用いて同定を行う。曲げせん断型モデルでは、各層の水平剛性に加えて床の回転を表す回転剛性も存在するため、水平の加速度のみを観測可能とした場合には、何らかの最適化アルゴリズム等によって回転剛性を同定するための収斂計算(最適化)が必要である。しかしながら、アルゴリズムの煩雑化はシステム同定法の運用性を損なう上に、得られる解の妥当性や初期値依存性等による同定の不安定性など様々な実用上の問題が生じる。そこで、比較的安定して同定することが可能なせん断型モデルとして同定した結果を用いて、曲げせん断型モデルによる同定に用いるデータを補う方法を提示した。具体的には、両同定モデルでは、1次水平モードが近似的にほぼ一致するため、1次モードにおける転倒モーメントをせん断型モデルから評価し、これを曲げせん断型モデルの釣合い式に用いる。また、水平応答に加えて、床回転角が計測可能である場合についても検討することで、逆固有モード展開により曲げせん断型モデルの剛性同定を行う方法を構築した。この手法では、水平変位と回転角に関する1次固有モードの同定が必要であり、部分空間法を適用して得られる伝達関数の振幅比により簡易にモード同定を行うことが可能であることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
曲げせん断型モデルを用いたシステム同定法における回転剛性の同定の安定性を向上することを目的として、せん断型モデルを併用する手法の理論的枠組を構築した。本手法では、安定して同定が可能であるせん断型モデルを用いた同定結果において、同定したモデルにおける1次モード成分から層せん断力や転倒モーメントが近似的に曲げせん断型モデルのこれらの応答量と近似的に等しいとみなすことに着想したものである。本手法による剛性同定理論の妥当性の検証として、平面骨組モデルの応答を時刻歴応答シミュレーションにより求め、応答データに対して提案同定手法を適用した。本検証では、平面骨組モデルを曲げせん断型モデルとして概ね良好な精度で同定できていることを確認した。回転剛性の同定の安定性についての課題についても提案手法により改善されることを確認した。また、曲げせん断型モデルの回転剛性は、建物の固有周期に影響が少ないことが明らかになった。しかしながら、フィルタリングの設計や、伝達関数を評価する際のパラメトリックモデルであるARXモデルを採用した際のモデル次数の決定法には未だ人為的な操作が必要であり、これらのプロセスにおけるパラメターの設定によっては剛性同定結果には少なからずばらつきが存在する。さらに、検証として用いた平面骨組モデルの諸元のパラメターは限られたものであるため、層数やスパン数といった建物の形状に関する分析など未検討項目も多いため、提案手法の種々の超高層建物モデルに対する適用性についての検討を継続中である。また、人為的な操作を不要とする手法として、伝達関数を部分空間法により評価する手法をシステム同定法の枠組に組み込む方法を新たに考案し、新しい剛性同定手法理論として、同手法の妥当性や種々の建物モデルへの適用性を検討している。
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Strategy for Future Research Activity |
本手法を実際の超高層建物に対する構造ヘルスモニタリングシステムとして適用するために,主として風外乱等に起因する未知の外乱による計測ノイズといった種々の実用上の問題を克服する必要がある。直上直下の床応答に関する伝達関数をARXモデルにより評価する手法や部分空間法により建物の応答(床の回転も含む)をパラメトリックな形で評価することで,計測ノイズの影響についてある程度は取り除くことが可能であるものの,前者についてはモデル次数の指定という課題がある。風外乱に対する建物振動は、地動とは異なるメカニズムであるため、外乱と応答の関係として成り立たない。風外乱による建物応答もノイズの一種とみなすことができ、計測時のこれらのノイズ特性を考慮した上で,同定精度を向上するアルゴリズムを構築する。さらに、計測ノイズの特性を明らかにするために、曲げせん断型モデルを模した建物モデルによる常時微動観測実験を実施し,実際の常時微動データに対して,せん断型モデルと曲げせん断型モデルを併用する本提案手法を適用し,実験データに対する適用性を検証する.また,常時微動に加えて,風外乱を受けた時の微振動についても考慮し,想定しない外乱に対する微振動などの種々のノイズが同定精度に及ぼす影響を定性的に分析する.
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Causes of Carryover |
実験治具の制作において予算が余ったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度に計画する実験において製作する治具等に使用する予定。
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