2016 Fiscal Year Research-status Report
建築材料への接触が脳活動・自律神経活動に及ぼす影響に関する研究
Project/Area Number |
16K18200
|
Research Institution | Forestry and Forest Products Research Institute |
Principal Investigator |
池井 晴美 国立研究開発法人森林総合研究所, 構造利用研究領域, 任期付研究員 (90760520)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 人間生活環境 / 居住性 / 生理人類学 / 木質環境学 |
Outline of Annual Research Achievements |
木材は経験的に手触り・足触りの良い建材として知られているが、木材への接触がもたらす生理的影響について、脳活動・自律神経活動を用いて明らかにした報告は存在しない。本研究においては、木材を含めた種々の建築材料への手掌・足裏接触時の生理応答について、心拍変動性および前頭前野近赤外分光法を用いて明らかにすることを目的とした。 平成28年度は、ヒノキ材への手掌接触が生理応答に及ぼす影響について、建築材料の一つである大理石との比較により明らかにした。被験者は成人女性23名とし、人工気候室内にて行った。自律神経活動の指標として、心拍変動性を用いた。副交感神経活動を反映する高周波成分(HF)を算出し自然対数化した。脳活動の指標として、近赤外時間分解分光法を用い、左右前頭前野酸素化ヘモグロビン濃度を計測した。被験者は閉眼安静後90秒間材に接触した。その結果、ヒノキ材への手掌接触は、大理石と比較し、接触0~30秒間および90秒間全体の平均値において、1)ln(HF)が有意に上昇すること、2)左前頭前野酸素化ヘモグロビン濃度が有意に減少することが示された。結論として、木材への手掌接触は、副交感神経活動の昂進および脳活動の鎮静化をもたらし、生体を生理的にリラックスさせることが明かとなった。 また、木材が人にもたらす生理的リラックス効果に関する研究の現状を概観するため、文献調査により査読論文を41報収集した。その結果、1992年にタイワンヒノキ材の嗅覚刺激に関する報告がなされて以来、五感に関わる生理データが少しずつ蓄積されつつあることがわかった。一方、先行研究においては、1)被験者数が少なく、多くが20代男女であること、2)嗅覚刺激に関する検討が主であり、触覚刺激に関する報告は少ないこと、3)刺激間の比較等を含めた統計上の問題があることが示され、本分野において更なる研究が必要であることが明らかになった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度においては、以下の計画を予定した。 (1)対象とする建築材料の選定・物理的性質の計測 試料として用いる建築材料は、平板とする。異なる素材(木材、シートフロア材、石材、金属等の人工物)ならびに異なる表面塗装を施した木材(無垢材、オイル塗装、ポリウレタン塗装等)を数種類用意し、刺激として用いるものを決定する。その後、物理計測(熱流量・表面温度・熱伝導率・表面凹凸等)を実施し、各種建築材料の物理的性質を把握する。 (2)手掌接触が脳活動・自律神経活動に及ぼす影響 被験者は20代の大学生とし、温度25℃、湿度50%、照度50lxに設定した人工気候室において閉眼座位にて実施する。閉眼座位にて安静状態をとった後、ひじを支点として腕を動かし、建築材料に2分間接触する。その間、脳活動・自律神経活動計測は連続して行う。接触後、感情プロフィールテスト(POMS)、不安感(STAI状態不安)、印象評価(SD法)等の質問紙を用い、主観評価を計測する。成果はインパクトファクター雑誌に発表する。本実験は被験者実験であるため、計画書にて実験場所として設定した国立研究開発法人森林総合研究所および千葉大学環境健康フィールド科学センター倫理審査委員会の承認の基、実施する。被験者に対して研究の目的およびその必要性を文書ならびに口頭で説明し、十分理解を得た上で自由意思に基づく文書による同意を得る。 平成28年度の計画に関しては、予定通りの研究を実施し、ヒノキ材への手掌接触が生理応答に及ぼす影響を明らかにした。さらに、文献調査を実施し、本研究分野における現状の課題を明らかにした。本成果は、これまでにない新たな知見である。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成28年度に得られた結果を基にして、平成29年度においては、以下の研究を実施する。 (1)足裏接触が脳活動・自律神経活動に及ぼす影響 手掌実験と同じ素材を用いて、足裏接触が生理応答にもたらす影響を明らかにする。20代の大学生20名を被験者とし、温湿度・照度を一定にした人工気候室内にて行う。閉眼座位にて安静状態をとった後、昇降機にて材を迫り上げ、90秒間足裏接触させる。成果はインパクトファクター雑誌に発表する。本実験は被験者実験であるため、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所および千葉大学環境健康フィールド科学センター倫理審査委員会の承認の基、実施する。被験者に対して研究の目的およびその必要性を文書ならびに口頭で説明し、十分理解を得た上で自由意思に基づく文書による同意を得る。
|
Causes of Carryover |
日本木材学会英文誌への論文掲載費を予算に計上していたが、その費用が不要となったため、次年度使用額が生じた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の論文掲載費として使用する予定である。
|
Research Products
(2 results)