2016 Fiscal Year Research-status Report
政府高官官舎・地方高官官舎に見る「和洋館並列型住宅」の成立と展開に関する研究
Project/Area Number |
16K18221
|
Research Institution | Chiba Institute of Technology |
Principal Investigator |
藤木 竜也 千葉工業大学, 創造工学部, 准教授 (40551156)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 近代日本の政府高官官舎 / 和洋館並列型住宅 / 側面並列型 / 背面後方型 / 渡廊下型 / 和館付属型 / 洋館主従型 / 和住洋賓型 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度においては、政府高官官舎の「和洋館並列型住宅」を対象に調査・研究を進めた。既に蓄積してきた国立公文書館・国会図書館・建築学会図書館から収集した政府高官官舎のデータに加えて、当該年度にて宮内庁書陵部、外務省外交史料館、防衛省図書館、読売新聞・朝日新聞の新聞記事より調査を実施し、宮内大臣官舎や司法大臣官舎(共に明治21年設置)などをはじめとした20件の政府高官官舎について新たに見出すことが出来た。とりわけ宮内庁書陵部の所蔵資料からは「和洋館並列型住宅」になる内大臣官舎(明治25年竣工)の詳細な工事記録や宮内大臣秘書官官舎(明治時代中期)の建築図面、宮内大臣官舎の工事明細書(昭和20年)の所在が認められ、これらは「和洋館並列型住宅」にならない事例も含むが、広く近代日本の官舎建築研究の観点より考究すべき図面・資料の所在を知り得た重要な成果といえる。 以上のことから明治~昭和戦前期における政府高官官舎を網羅し得たといえ、93件に及んだ中から24件の政府高官官舎が「和洋館並列型住宅」と認められた。これは明治時代の事例が23件に及び、自ずと明治期の「和洋館並列型住宅」を分析・考察することに等しいものであった。平成28年度では、日本生活文化史学会大会にて「明治初期の工部卿官舎について」と題して発表を行った。さらに文化財建造物の「和洋館並列型住宅」の分析を行った既往研究(遠藤貴子・藤木竜也:文化財建造物「和洋館並列型住宅」の分類比較による和洋館配置の傾向について、平成25年)を参考に和洋館の用途・配置・接続形式から考察し、洋館で接客・居住を行い、和館をあくまで附属家とする場合には洋館を正面・後方双方に開く形で配置し、和館にも居住機能を持つ場合には洋館の後方に隠すように配置する傾向を持つことを明らかに出来た。この成果は平成29年度の日本建築学会大会にて研究発表を予定している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度となる平成28年度においては、従前から国立公文書館・国会図書館・建築学会図書館の資料調査により蓄積してきた明治~昭和戦前期の政府高官官舎の研究資料に加えて、宮内庁書陵部、外務省外交史料館、防衛省図書館、当時の新聞記事より新たに調査を行った。これにより20件の新たな資料・情報を見出し、93件に及ぶ近代日本の政府高官官舎を資料的に網羅し得た。とりわけ宮内庁書陵部所蔵の資料より内大臣官舎の工事記録を見出せたことは重要で、近代日本の政府高官官舎において詳細な建設工事過程がまとめられた唯一ともいえる記録であり、今後詳細な分析が必要であると認識するものである。そして、先の93件の政府高官官舎から抽出できた「和洋館並列型住宅」24件を対象にして、和洋館の用途・配置・接続形式から分析・考察を行い、相応の研究成果を得られたことは既述の通りである(「研究実績の概要」参照)。以上のことは本研究課題の申請時に記載した通りであり、平成28年度は概ね計画通りに研究を進められたと言える。 一方で、各省の大臣・次官・秘書官の官職・官位の違いが「和洋館並列型住宅」の形態の差異にどの程度表出するものであったのか、または近世上流武家住宅に採られた書院造の配置構成との比較分析を通じて「和洋館並列型住宅」への継承の観点からの考察に関しては時間の制約上から踏み込み切れないままとなった。これらは平成29年度に早急に取り組むものとする。以上のことから「おおむね順調に進展している」として現在までの進捗状況を報告するものである。
|
Strategy for Future Research Activity |
まずは平成28年度に研究が不十分となった官職の相違による「和洋館並列型住宅」の形態の差異に関する分析・考察を進め、さらに近世上流武家住宅の書院造からの継承に関する研究についても既往の書院造に関わる学術書・研究論文より配置構成に関わる記述を抽出し、これを平成28年度に得てきた研究成果である政府高官官舎の「和洋館並列型住宅」の配置構成と比較分析を行うことで特質を明らかにしたい。また、近代日本の政府高官官舎で唯一の詳細な工事記録として見出せた内大臣官舎資料も翻刻を行い、建設工事過程を整理することで、建設の推移、建物仕様、和洋館の使途など、明治時代における政府高官感官舎の「和洋館並列型住宅」に関する細部について考究を深める。 これらの調査研究を進める一方で、当初の申請内容に従い、平成29、30年度の2ヶ年度で「和洋館並列型住宅」の地方への展開過程を捉えるために県知事・警部長の地方高官官舎を対象に調査研究を行う。まずは各都道府県の図書館・公文書館における資料の所蔵状況についてリストアップを行い、これを踏まえて調査計画を立てて順次資料調査を実施していくが、主に平成29年度は東日本、平成30年度は西日本を予定する。しかし、資料所蔵上の都合などから速やかに進められる場合には、平成29年度の内に可能な限り資料調査を実施する。 また、各都道府県の図書館・公文書館より得られた研究資料について、既に行ってきた「和洋館並列型住宅」における和洋館の用途・配置・接続形式の分析手法より順次考察を進める。とりわけ政府高官官舎の「和洋館並列型住宅」との比較分析により、その相違を浮き彫りにし、地方における「和洋館並列型住宅」の展開過程について明らかにしたい。
|
Causes of Carryover |
平成28年度に15万円計上していた物品購入費は、資料調査に必要なデジタルカメラ、SDカード、外付HDD等の購入に充てたが、その他に計上していた「文献資料等の複写代」等の計35万円は、デジタルカメラでの撮影により資料調査を実施出来たことにより、複写代を必要としなかったことから研究助成金の残余が生じた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度研究助成金の残額35万8円は、平成29年度の旅費55万円に対して申請時は75万円を計上していたため、その差額20万円分をここから充てる。残るおおよそ15万円分に関しては、主として近世上流武家住宅の書院造との比較分析のために必要とする資料・書籍の購入費用として使用する計画とする。
|
Research Products
(1 results)