2016 Fiscal Year Research-status Report
残留アモルファス構造評価による結晶化メカニズムの新規解明
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16K18227
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
山田 類 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (40706892)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 急冷装置機構の構築 / ランダム構造の制御 / 結晶化初期段階の形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初の計画どおり、構築した急冷装置を用いて冷却速度を様々に変化させることで、Zr系金属ガラスの内部構造(特にβ緩和領域)の異なる試料を作製することに成功し、さらに、それらを人為的かつ系統的に制御できる可能性を本年度の研究で明らかにすることができた。これまではランダム構造制御が非常に困難であると考えられてきたが、本装置を構築し、過冷却液体温度域から冷却速度を精密に制御することで、ガラス構造を人為的、戦略的に制御できる可能性を明らかにした点は大きな成果であると言える。またその評価手法においても、従来まではバルク材を対象とした急冷が困難であったため、その詳細は明らかにされてこなかったが、様々な冷却条件を経たバルク試料の準備が可能となったため、ガラス状態を多角的な観点から評価することに成功し、ランダム構造をある程度予測することが可能となったという点で、本研究成果の意義は非常に大きいものと考えられる。 また、DSCと高分解能TEMを用いて、結晶化の初期状態(原子の規則化)が生じる熱処理条件を詳細に精査し、過冷却液体温度域内で2回熱処理を行うことで、アモルファス状態はほぼ維持したままで微細な結晶だけが析出した状態を形成することに成功した。これは、その後の結晶化メカニズムの解明にあたり、ガラス状態との関係性を初めて詳細に議論することができるという意味で非常に意義のある結果である。 研究計画の当初の予定には含まれていなかったが、今後、Zr系金属ガラスとその内部構造(α緩和,β緩和領域の比率)や結晶化に対する抵抗力が異なるPd系金属ガラス試料においても、同様の手順で議論を展開していき、結晶化に対する高い抵抗力がどの内部構造領域に由来しているのかをより明確にしたいと考えている。このことは、非晶質全般における結晶化の普遍の原理解明に大きく貢献する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度初期には、バルク材を対象とした急冷装置機構の構築に取りかかり、数cm長さのZr系金属ガラスリボン材にHeガスを吹き付けることで、500℃程度の温度からおおよそ250K/minの急冷を達成した。さらに本装置を用いて、リボン材のみならず~4mm直径のロッドやディスクといったバルク材の急冷も可能となり、これにより、急冷試料の材料物性評価手法が大幅に拡大した。また、ガス流量の調整や温度プログラム制御によって、当初の予定通り、様々な冷却過程を経た(10K/min~250K/min) 金属ガラスリボン材を準備することに成功した。以上から、試料準備段階は一通り達成された。 平成28年度の中期から後期にかけては、異なる冷却履歴を有するリボン材の粘弾性測定を行い、徐冷を施した試料と急冷を施した試料において、特にβ緩和の領域割合に明確な違いがあることが分かった。冷却速度を変化させることで内部構造が段階的に変化していく様子を捉え、過冷却液体温度域からの冷却条件によるランダム構造制御の可能性を明らかにした。また、前述したように、急冷を施した様々なバルク試料を準備することが可能となったため、粘弾性のみならず、比熱や熱膨張測定といった多角的な手法を通じて試料を評価することができ、ガラス状態をより緻密に議論することが可能となった。さらに、微細結晶析出の熱処理条件をDSC及び高分解能TEMを用いて詳細に検討し、最終的に、過冷却液体温度域での熱処理を2回行うことで、アモルファス母相内にほんのわずかの結晶化初期状態を形成することに成功した。 また、当初の予定に加えて、Pd系の実験にも少しばかり着手し、冷却速度制御による試料準備まで行うことができた。 以上の通り、申請時に提出した研究計画に従い研究は順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、平成28年度に準備した微細結晶化が生じたZr系試料において粘弾性測定を行い、結晶化の起点が主にどの領域(α緩和,β緩和領域)に起因しているのかを明らかにすることを第一目標とする。これによって核生成が金属ガラス内のどの領域に最も関連しているのかを明らかにすることができる。また、再度、熱処理条件を精密に探査し、微細結晶化からわずかに結晶を成長させた結晶化第二段階の試料を準備する。その際、試料は依然完全結晶とはならず、アモルファス相を残留させることが必要となる。はじめに、この試料の結晶成長度合いや残留アモルファス量をDSCや高分解能TEMを用いて明らかにし、その後、粘弾性測定を行うことで、どの領域が核成長に主に起因するかを調査する。これらの研究成果を通じて、内部構造と結晶化各段階の関係性を初めて解明する。 また、当初の予定には含まれていなかったが、内部構造や過冷却液体の熱的安定性の異なるPd系を対象として同様の手順で結晶化挙動について議論し、Zr系との違いを比較しながら、結晶化の原理解明を試みる。それによって、非晶質材料全般の結晶化挙動の理解ならびにその抑制に繋がる新たな知見を得ることを目指す。これらの研究を通じて、最終的に結晶化が最も生じにくい内部構造を予測し、冷却速度制御によって結晶化の抵抗力の高いアモルファス構造の形成に挑戦する。 以上の知見を整理するとともに、研究のまとめを行う。
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Causes of Carryover |
急冷装置を構築するに至り、当初の計画では年度初期の段階で高周波誘導加熱ユニットを購入する予定であったが、物品費が足らなかったため、共同研究を行っている工学研究科の同様式の装置を改良する形で代替した。これによって発生した経費の一部は、今後の研究に向けたPd系金属ガラスの原料代、及びランダム構造を予測する解析ソフトの購入に使用した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度の残高は、来年度の原料の購入や国内外の研究発表の旅費等に当てる予定である。
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