2016 Fiscal Year Research-status Report
高周期化ナノ構造薄膜のマルチフェロイック特性と光機能性材料への応用
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16K18234
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
中嶋 聖介 静岡大学, 工学部, 助教 (40462709)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 酸化物磁性体 / エピタキシャル成長 / 磁気光学効果 / パルスレーザー堆積法 / ランダムスピネル構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はパルスレーザー堆積装置を用いて作製する亜鉛フェライト薄膜について条件検討など詳細に調査を行った。最終目標であるチタン酸バリウム相との二相ナノ構造化に向けて、磁性相である亜鉛フェライトの配向成長を確認し、ランダムカチオン分布に基づく高い磁気光学特性をもち得るかどうかを調べる必要があった。さらに多相成長を試みる際にターゲットが多組成化するため、微量の組成変化に対する亜鉛フェライトの磁気的性質が受ける変化を調べることは重要なステップであると考えられる。今回、1%程度の組成の変化に対しては単相のスピネル型亜鉛フェライトが得られること、さらに量論比がずれると第二相が析出することが明らかとなった。単相のスピネル相が得られた薄膜に対して磁気光学測定を行ったところ、マグネタイトなどのフェリ磁性体に匹敵する高いファラデー回転を示すことがわかった。回転角の波長分散測定では、390nm及び480nmにおいて特徴的なピークをもつことがわかり、スパッタ法により作製可能なランダム亜鉛フェライト薄膜と類似したスペクトルが得られた。スパッタ亜鉛フェライト薄膜がガラス基板上への多結晶成長であるのに対して、本研究で作製した試料はサファイア基板上へのc軸配向成長が実現した。次年度のチタン酸バリウムとの混晶化に向けて大きな成果を得たと考えられる。次年度は亜鉛フェライトとチタン酸バリウムの混晶ターゲットを用いてナノ構造薄膜作製に取り掛かるが、低温の基板加熱条件における実現を目標に、成膜初期過程を詳細に検討する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ランダムスピネル構造をもつ亜鉛フェライトの配向成長を目指して、パルスレーザー堆積法による亜鉛フェライト薄膜の作製を行い、結晶構造及び磁気的性質を調査した。化学量論比の組成に加え、亜鉛と鉄の組成比を0~3%の間で変化させたターゲットを用いた。300~500℃で加熱したサファイア基板上にNd:YAGレーザー2倍波を用いて100nm程度の薄膜を堆積させ試料とした。雰囲気は酸素とし、1×10^-2Paから1×10^-1Paとした。X線回折測定から上記の範囲で作製した薄膜はC軸配向成長したスピネル型結晶相であることがわかった。配向成長を示す回折ピークから求めた面外方向(111方向)の見かけの格子定数は文献における亜鉛フェライトの値と比較して小さい値となった。また、量論組成及び亜鉛が1%過剰の組成においては、ほぼ単相のスピネル相が得られたが、亜鉛を2%過剰とした試料、及び鉄を3%過剰とした試料では低角度側にブロードな第二相の析出が確認された。得られた試料における磁気光学特性を評価するために、ファラデー効果測定を行った。予想通り、化学量論組成及び亜鉛を1%過剰とした試料においてランダムスピネル構造に基づく高いファラデー回転角が得られた。一方、800℃程度の熱処理を行うと、薄膜のファラデー効果は常磁性的に小さくなることから、本薄膜はマグネタイトなどのフェリ磁性鉄酸化物が偏析したものではなく、ランダムスピネル構造をもつ亜鉛フェライトのフェリ磁性が発現したものと考えられる。また、文献におけるスパッタ法により作製したランダム亜鉛フェライト多結晶薄膜と同等のファラデー回転角を示すことから、同様の磁気光学特性を有するランダム亜鉛フェライトをc軸配向成長させることに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の結果よりパルスレーザー堆積法により、ランダムカチオン分布を有することで高い磁気光学特性を示すフェリ磁性亜鉛フェライトをc軸配向成長することができた。そのため、次年度においてはターゲットに強誘電体物質であるチタン酸バリウム結晶を加え、2つの結晶相が同時に配向成長する作製条件を探る。チタン酸バリウムはペロブスカイト型構造であるため、スピネル型構造をもつ亜鉛フェライトとは界面においてヘテロ接合することが必要となる。両者の格子には大きな不整合が存在するため、今回の条件範囲において多相成長を実現することは難しいと考えられる。ところが、これまで報告のあるナノ構造薄膜に較べ、本研究で用いる磁性相の亜鉛フェライトは亜鉛の高い蒸気圧から組成ずれが起こりやすい可能性があるため、高い基板温度を選択することは適切ではないと考えられる。そこで、基板へのレーザープロセシングを行うことで表面状態に周期構造をもたせることを検討している。薄膜堆積の初期過程において、基板が十分に高い温度になっている場合は亜鉛フェライト相とチタン酸バリウム相の分相が起こりやすくなるため、多相成長となる。低温においても分相が促進する、すなわち一方の結晶が成長しやすくなるように一方の相の種結晶を基板上に形成させておくことを試みる。その際、数nm程度のスピネル薄膜をレーザーアブレーションによりパターニングする方法などを検討する予定である。
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Causes of Carryover |
年度末に修士学生を帯同して実験装置使用のために国内大学へ出張予定であったが、先方の都合により装置を使用できず出張が延期となったため、助成金の繰り越しが生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、上記出張を行うほかは計画通り予算を執行する予定である。
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Research Products
(3 results)