2017 Fiscal Year Research-status Report
結晶粒を超微細化した鉄およびフェライト系ステンレス鋼の水素脆化特性
Project/Area Number |
16K18268
|
Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
岩岡 秀明 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 助教 (90751496)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 水素脆化 / 高圧ねじり加工(HPT) |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では結晶粒界における特異な水素拡散挙動が水素脆化特性に及ぼす影響について調査することを目的としている。体心立方(BCC)構造を持つ純鉄の結晶格子中の水素拡散は非常に速いが、結晶粒を微細化すると水素拡散が遅くなることがこれまでの研究で明らかとなった。転位が水素のトラップサイトとして働くことによって起こる拡散の遅延とは異なり、結晶粒界ではフィックの拡散則に従っているにも関わらず水素の拡散が遅くなることから低速拡散経路として働いていることが示唆される。このことから微細結晶粒材では粗大粒材とは異なる水素脆化挙動を示すことが予想される。そこで本研究では高圧ねじり(HPT)加工によって結晶粒を微細化した試料に対して水素チャージを行いながら引張試験を行い、結晶粒界による水素拡散の遅延が水素脆化に及ぼす影響について調査を行うとともに、低速拡散経路のメカニズムについての考察を深めることを目的としている。 今年度はHPT加工およびその後の熱処理によって結晶粒径および転位密度を変化させた鉄試料に対して水素チャージ引張試験を行い、結晶粒界や転位が水素脆化に及ぼす影響について調査を行った。各試料は水素チャージを行うことによって延性の低下や破壊形態の変化がみられ、水素脆化の影響が確認された。この水素による延性の低下は結晶粒が小さいほど顕著に現れており、この延性低下の結晶粒径依存性のメカニズムについて明らかにすることが次年度の課題となる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度はHPT加工によって結晶粒をサブマイクロサイズにまで超微細化した後、様々な温度で熱処理を行った純鉄を試料として用いた。EBSDおよびXRD解析の結果、熱処理温度が高いほど結晶粒径は大きくなり、転位密度も低くなっていることが確認された。 様々な結晶粒径および転位密度を持つこれらの鉄試料に対して陰極水素チャージをしながら引張試験を行い、水素脆化感受性について調査した。水素チャージによる引張強度の変化はほとんどなかったものの、伸びや絞りは減少し、水素による延性の低下が確認された。レーザー顕微鏡により破断部の三次元観察を行ったところ、中心部が凹むように破断する場合(カップアンドコーン型)と引張方向に対して斜めに破断する場合(せん断型)の二種類の破壊形態がみられた。結晶粒径が小さいほどせん断型破壊を起こしやすい傾向がみられたが、水素をチャージするとより大きな結晶粒径でもせん断型破壊が起きた。また、水素による絞り値の減少率はカップアンドコーン型破壊の場合は結晶粒径によらずほぼ一定であったが、せん断型破壊の場合は結晶粒径が小さいほど絞り値の減少率が大きくなった。 以上より、純鉄の超微細粒材の引張試験中に水素チャージを行うとせん断型破壊が起こりやすくなり、この破壊形態をとる場合には結晶粒径が小さいほど水素脆化しやすいことが明らかとなった。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度に行った引張試験は水素をチャージしながら行ったため、破断までにチャージされた水素の量は試料ごとに異なり、試料内の水素分布も不均一であると考えられる。そのため、確認された結晶粒径による水素脆化のしやすさの違いが結晶粒界による本質的なものではなく、単に水素濃度の違いによるものであることも考えられる。そこで次年度では引張試験前に水素のチャージを完了させ、水素の分布が均一となるように一定時間保持した後、引張試験を行う。これにより結晶粒径の水素脆化への影響をより明確にできると考えられる。 さらに、引張試験中の水素濃度や水素分布について調査するために、昇温脱離分析(TDS)やケルビンフォース顕微鏡(KFM)観察を行う。TDS分析では水素チャージ引張試験と同じ条件で水素をチャージした試料を昇温していき、放出された水素量を計測することで試料中に含まれていた水素の量を測定する。また、KFM観察では試料表面をプローブで走査していき、各位置における接触電位差を測定する。観察面の裏側から水素をチャージして、水素濃度による接触電位差の変化を測定することで、水素分布のマッピングを行うことができる。結晶粒界や結晶粒内における水素濃度の違いを明らかにすることで、結晶粒界による水素脆化促進のメカニズムについて考察する。
|
Causes of Carryover |
昇温脱離分析の依頼に使用する予定だったが、別の実験結果と照らし合わせて試験条件を見直す必要が出てきたので、今年度は分析の依頼は行わなかった。次年度、試験条件が決定され次第、分析の依頼は行う。
|