2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K18275
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
三上 貴司 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (30534862)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 化学工学 / 晶析操作 / 単分散結晶 |
Outline of Annual Research Achievements |
従来の冷却晶析法において、寸法や形状の均質な単分散結晶を製造するには、種結晶添加後の新たな核発生が十分に抑止される必要がある。この問題の解決策として、岩手大の晶析研究グループが開発した、種結晶を大量に添加する「シーディング法」が有用である。しかし、本法を用いる限り、種晶由来の不純物が製品に混入するリスクを払拭できない為、結晶純度の面で不都合となる場合がある。この点は、とくに医薬品や食品分野において重要となる。本研究では、種結晶を添加しない冷却晶析法として、「滴下冷却法」を提案した。本法は、高温の原料溶液に低温の原料溶液を外部から添加する方法であり、結晶化の推進力である過飽和度を、原料の供給方法を工夫することで、ある程度制御できる。本研究では、滴下冷却法を用いるとともに、原料溶液の冷却工程を核化工程(結晶の個数を増大させる工程)と成長工程(結晶の粒径を増大させる工程)の2工程に分割することで、単分散結晶製造の要件である「核化と成長の分離」の達成を目的とした。今年度は、1段目の核化工程に着目し、寸法や形状が均質な種結晶の作製に重点を置いた。具体的には、原料溶液の滴下量、滴下速度、温度を種々変更し、製品結晶の粒径や単分散性(粒径均質化の度合い)に及ぼす影響を調査した。また、従来法との比較を行い、新法である滴下冷却法の優位性を調査した。その結果、滴下冷却法を用いることで、単分散性が従来法よりも最大で40%程度改善され、滴下冷却法の優位性が示された。 また、滴下冷却法において、原料溶液の滴下量および温度が過飽和度に顕著な影響を及ぼすことを見出した。これらの条件を最適化することで、単分散性の指標である変動係数(CV)を40%程度まで改善できている。本研究成果は、2016年度の化学工学会福島大会と化学工学会年会においてそれぞれ口頭発表がなされた。近く、海外学術論文誌に投稿を予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題では、単分散結晶が得られたことの数値目標として、変動係数(CV)20%以下を設定している。しかし、現状は高々CV40%程度であり、目標未達成の状況である。目標が達成されていない要因の一つに、装置仕様上の問題点が挙げられる。すなわち、高温溶液を低温溶液に滴下する際、低温溶液側の液温が数℃上昇するが、これが元の設定温度まで冷却されることで、意図しない結晶化が起こっていること、さらには、滴下された原料溶液が均一に混合されず、意図しない結晶化が局所で引き起こされていることが推察された。次年度は、現在問題となっている装置仕様上の修繕を図る一方、現状の成果をしのぐ良好な結果が予想されている手法(2段滴下冷却法)に着手する。当初の予定から、若干の計画変更の可能性があるが、基本路線は、当初の予定を継承する予定である。今後、研究を推進する上で、予期しない事態が起こった場合は、なるべく現在の手法での改善を試みる。ただし、同手法の継続が厳しいと判断された場合は、現在の手法(滴下冷却法)を中止し、代替の手法として貧溶媒添加晶析法を検討する。本法は、原料を含む溶液中に沈殿剤に相当する貧溶媒(原料にとって溶解しにくい溶媒)を添加することで結晶を析出させる手法であり、原料溶液を添加する点において、滴下冷却法と類似の手法である。検討されるべき事項についても、滴下冷却法と同様の視点に基づき、貧溶媒の添加量や添加速度が中心となる。本法は、本研究課題とは別に予備試験が進められている状況にあり、目的を達成するための操作条件に関して、数年程度の知見がすでに得られている。したがって、手法が変更された場合においても、これまでの進捗を引き継ぐことから、一からの検討とはならない。また、滴下冷却法と同様のアイデアに基づいて検討中であることから、手法が変更されても、本研究課題におけるアイデアの根幹部分は変わらない。
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Strategy for Future Research Activity |
装置仕様上の問題点(液温上昇、溶液混合)の解決を図る。液温上昇の問題点については、これまでの予備試験の成果に基づき、原料溶液の温度差が主な要因となっていることを既に明らかにしている。したがって、次年度は、意図しない結晶化が起こらない、適当な液温範囲を検討する。また、溶液混合の問題点については、滴下に用いるノズル形状を変更することで改善を図る。現在、ノズルにガラス円管を用いているが、ノズルの管内径や滴下位置、本数を変更して検討を行う。また、時間的な余裕がある場合は、ステンレス製にするなど、ノズル材質の検討も行う。これらの問題点を解決することに加えて、次年度は、本研究課題のアイデアの根幹である2段滴下法を重点的に検討する。本法は、冷却段数を核化工程と成長工程の2段階に分割することで、結晶化現象を核発生と結晶成長とに操作で分けて制御し、均質性の高い結晶粒子群を製造する手法である。具体的には、(1)保持工程の検討、(2)2段目の冷却工程における滴下条件の検討を行う。保持工程の検討については、1段目の冷却工程(核化工程)の後、装置内の液温度を一定時間保持して、生成した過飽和度をいったん完全に消費させるので、そのために必要な時間を検討する。(2)2段目の冷却工程(成長工程)の検討については、原料溶液の滴下量ならびに滴下速度を中心に検討する。結晶が理想的に成長し、粒径や形状が均質な結晶粒子群が生成されるには、核発生により生成した初期の結晶個数と最終の結晶個数が一致することが要件となる。加えて、結晶の成長速度に合わせて原料溶液の滴下速度が操作中に調節されることが要件となる。これらの考え方に基づき、単分散結晶を製造するための操作モデル式を導出し、この操作モデルを滴下冷却法に適用した場合に予想される理論的な滴下条件を算出する。また、計算値に基づいて試験を実施し、操作モデルの妥当性を評価する。
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Causes of Carryover |
購入する必要が生じた物品の納品が年度末であったことから、支払が次年度に繰り越された為。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
繰り越し分の予算については、平成28年度内で全額を使用、納品済である。
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Research Products
(3 results)