2016 Fiscal Year Research-status Report
P2受容体機能異常による緑内障性視神経症発症機構の解明
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16K18390
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
篠崎 陽一 山梨大学, 総合研究部, 講師 (10443772)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ATP / P2Y6 / glaucoma / retina / neurodegeneration / neuroprotection / purinergic / neuropathy |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度の研究結果より、P2Y6受容体が生理的な眼圧調節、特に眼房水産生を負に制御する事を見出した。発現部位を詳細に検討したところ、眼房水産生に関わる毛様体突起の特に、無色素上皮に局在する事が明らかとなった。研究代表者が開発した二種類のin vivoフルオロフォトメトリー法による解析から、P2Y6受容体アゴニストであるUDPによる眼房水産生抑制効果はチモロールと類似し、ラタノプロストとは異なるパターンを示した。リバウンド式トノメーターを用いた眼圧計測でもUDP点眼によって一過的な眼圧下降を示した。一方、P2Y6受容体欠損(KO)マウスでは恒常的に眼房水産生の増加ならびに高眼圧を示した。これらのフェノタイプは自然発生型緑内障の表現型として考えられたため、各種解剖学的検討を行った。光干渉断層計(OCT)を用いた網膜GCL及びIPLの厚さ解析、視神経乳頭部陥凹、視神経の電顕による解析、Brn3a陽性RGC細胞数の計測などの結果、いずれも老齢のP2Y6KOマウスで障害が見られた。同様に、視覚機能解析においても同様の所見が認められた。これらの表現型がP2Y6遺伝子の欠損によるものか眼圧上昇によるものかを明らかにするため、ラタノプロストを眼圧上昇が顕著に見られる前(4週齢)より4ヶ月以上点眼処置したところ、眼圧が野生型と同程度まで低下し、OCTで観察された網膜菲薄化やRGC脱落などが改善した。以上の結果より、P2Y6受容体は眼房水産生を負に制御する事によって眼圧をコントロールする事、P2Y6受容体の欠損は恒常的に眼圧上昇を引き起こし、緑内障様症状を誘導することを明らかとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本申請課題の目標としていた点を既にクリアしている点。具体的には以下の点を明らかとした点である。(1)P2Y6受容体が生理的な眼圧下降作用に重要であること。その作用メカニズムには毛様体突起無色素上皮からの眼房水産生を負に制御する事を示した。(2)P2Y6受容体欠損(KO)マウスでは恒常的に高眼圧フェノタイプを示すことを明らかとした。解剖学的所見として、視神経乳頭部陥凹、視神経変性、網膜(GCL/IPL)菲薄化、Brn3a陽性RGC脱落などを評価したところ、若齢マウス(3ヶ月齢)ではこれらの指標では顕著な異常は認められず、老齢(12ヶ月齢)で認められた。(3)これらの解剖学的な所見と併せて視覚機能(multifocal ERG)も老齢P2Y6KOマウスで低減していた。(4)これらの所見はP2Y6KO自体によるものか、高眼圧によるものかを検討するため、ラタノプロストを4ヶ月以上点眼し、恒常的に眼圧を野生型レベルまで低減したところ、網膜菲薄化やRGC脱落などの所見が改善していた。(5)緑内障治療ターゲットの可能性として様々な検討を行ったところ、毛様体突起におけるP2Y6受容体の発現や無色素上皮のUDPに対する応答性は老化によって低下する事を見出した。従って、UDP点眼による眼圧下降は治療方法としては難しく、P2Y6受容体発現を増強する方法を模索する必要がある。(6)これらの所見をまとめ、世界最大の眼科学領域の国際学会(ARVO 2017)に発表するほか、論文を米国臨床医学会誌(JCI Insight)に投稿し、現在論文修正中である。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の研究によって当初予定していた目標はほぼ達成されたため、今後は研究結果から明らかになっていないメカニズムの解明を目指す。具体的には以下のとおりである。 (1)P2Y6KOマウスにおける顕著な眼圧上昇は4週齢~8週齢で形成される。これらのメカニズムを明らかにする。 (2)P2Y6KOマウスでは若齢ですでに高眼圧にも関わらず、視神経傷害の発露までは老化が必要であった。そのメカニズムを明らかにする。具体的には、網膜グリア細胞を標的とした半網羅的トランスクリプトーム解析を行う予定である。 (3)P2Y6受容体の老化による機能または発現低下のメカニズムを解明すると共に、発現/機能を回復させる方法論を確立する。
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