2016 Fiscal Year Research-status Report
ドーパミンシグナルによる遺伝子発現と情動記憶の制御機構の解明
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16K18393
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
船橋 靖広 名古屋大学, 医学系研究科, 助教 (00749913)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | リン酸化 / プロテオミクス解析 / ドーパミン / 情動 / 学習 / 記憶 / 遺伝子発現 / 転写因子 |
Outline of Annual Research Achievements |
ドーパミンは、快・不快などの情動の発現やその学習・記憶に中心的な役割を果たしている。ドーパミンは、細胞内でPKAやMAPKなどの蛋白質リン酸化酵素を活性化することで、遺伝子発現を制御し、情動記憶の形成に貢献すると考えられている。しかしながら、これらのリン酸化酵素がどのような転写因子をリン酸化するのかがよくわかっていないため、ドーパミンが遺伝子発現を調節するメカニズムについては依然として不明な点が多い。本研究では、ドーパミンシグナルの下流でリン酸化される転写因子を網羅的に同定し、そのリン酸化による遺伝子発現の制御機構を明らかにする。さらに、ドーパミンシグナルの下流で働く転写因子による情動記憶形成の制御機構を解明する。 平成28年度は、転写共役因子であるCBP/p300をビーズに固相化したカラムを用い、マウスの線条体においてドーパミンシグナルの下流でリン酸化により制御される可能性のある転写因子の網羅的な同定を行なった。その結果、転写因子NPAS4やMKL2を含む多数の蛋白質が同定された。さらにin vitroでのリン酸化解析を行った結果、NPAS4、MKL2がMAPKによりリン酸化されることが明らかになった。NPAS4, MKL2の抗リン酸化抗体を作製し、細胞内でのリン酸化状態を解析した結果、COS7細胞においてNPAS4-T427およびMKL2-S913のリン酸化が脱リン酸化酵素阻害剤の処置により上昇し、MEK阻害剤により減弱することが確認された。また、NPAS4が快情動学習・記憶に関与するかどうかを検討するため、条件付け場所嗜好性試験を行った。NPAS4欠損マウスは、野生型のマウスと比較して、コカインが投与された場所での滞在時間が優位に減少した。以上の結果から、ドーパミンシグナルの下流でNPAS4が快情動学習・記憶に関与することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は、以下の3つの項目について解析を行った。 (1) CBP/p300アフィニティカラムと質量分析法による転写因子の網羅的同定:転写共役因子CBP/p300をビーズに固相化したカラムを用い、マウス線条体に発現する転写因子を優先的に濃縮し、ドーパミンシグナルの下流でリン酸化により制御される可能性のある転写因子の網羅的な同定を行なった。LC/MS/MS解析によりCBP結合蛋白質候補として300種類以上の蛋白質が同定された。また、コカイン投与によってCBPとの結合が1.5倍以上変化する蛋白質として、70種類以上の蛋白質が得られた。 (2)リン酸化抗体による転写因子のリン酸化の評価:(1)の解析で同定されたNPAS4やMKL2などの転写因子がMAPKやPKAによってリン酸化されるかどうかを検討するためにin vitroでのリン酸化解析を行った。その結果、NPAS4、MKL2がMAPKによりリン酸化されることが明らかになった。さらにNPAS4、 MKL2の抗リン酸化抗体を作製し、細胞内でのリン酸化状態を解析した。COS7細胞においてNPAS4-T427およびMKL2-S913のリン酸化が脱リン酸化酵素阻害剤の処置により上昇し、MEK阻害剤により減弱することが確認された。 (3)ドーパミンシグナルの下流で働く転写因子による情動記憶の制御機構の解明:NPAS4が快情動学習・記憶に関与するかどうかを検討するため、条件付け場所嗜好性試験を行った。NPAS4欠損マウスは、野生型のマウスと比較して、コカインが投与された場所での滞在時間が優位に減少した。したがって、NPAS4が快情動学習・記憶に関与することが示唆された。 以上の結果より、本年度研究開始時に立てた実施計画と目標はほぼ達成出来たと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、以下の3つの項目について解析を行う予定である。 1.ドーパミンシグナルの下流でリン酸化される転写因子の網羅的同定:平成28年度にはCBP/p300アフィニティーカラムを用いて、マウス線条体における転写因子の濃縮と同定法を確立した。平成29年度には引き続きこれらの解析を進め、各種刺激剤や阻害剤に応答する転写因子の同定数を増やしていく。 2.転写因子のリン酸化の評価とそのリン酸化による遺伝子発現の制御機構の解明:平成29年度は、同定された転写因子の生体内でのリン酸化の解析やリン酸化の機能的意義を明らかにする。具体的には、抗リン酸化抗体を用い、各種刺激剤や阻害剤を処置した際の培養神経細胞や生体内におけるNPAS4やMKL2のリン酸化の変動を解析する。NPAS4やMKL2のリン酸化を擬似化する変異体やリン酸化されない変異体を用い、細胞内局在の変化やDNAや他の転写因子との結合の変化を解析する。また、これらの変異体を用い、レポーター解析や定量PCR解析を行い、ターゲットとなる遺伝子の発現変化を解析する。 3. AAVベクターを用いた、スパインの形態解析と、情動行動や記憶の制御機構の解析:同定された転写因子のリン酸化部位変異体を発現するAAVベクターを作製・精製し、マウスの側坐核に導入することで、スパインの形態観察やマウスの行動解析を行う。具体的には、平成28年度までの解析によりNPAS4が快情動学習・記憶に関与することが示唆されたため、平成29年度はNPAS4のコンディショナルノックアウトマウスとAAV-Sp-Creを用い、側坐核のD1受容体中型有棘細胞特異的にNPAS4を欠損させる。また、NPAS4のMAPKによるリン酸化部位変異体を発現するAAVをマウスの側坐核に導入することで、MAPKを介したNPAS4のリン酸化による報酬学習・記憶の調節機構を解明する。
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Causes of Carryover |
平成28年度の研究遂行に必要な消耗品の一部が、平成27年度に購入した消耗品の残分で賄われたため、支出を抑えることができた。また、平成28年度の解析は、現有の設備・試薬等で対応できたのに対し、29年度に計画している抗リン酸化抗体を用いた生体内でのリン酸化の解析や遺伝子改変マウスやアデノ随伴ウイルスを用いたマウスの行動学的解析、神経細胞の形態学的解析には新たな抗体・試薬等の消耗品やマウスを大量に購入する必要がある。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
マウスの行動学的解析、神経細胞の形態学的解析を行うため、遺伝子組換えマウスの入手やマウスの購入費に使用する。生体内でのリン酸化の解析を行うため、抗リン酸化抗体の作製・精製に使用する。リン酸化変異体を発現するアデノ随伴ウイルスを作製・精製するための消耗品に使用する。本研究で得られた成果の公表のため論文投稿費に使用する。
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Research Products
(6 results)
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[Journal Article] Focused Proteomics Revealed a Novel Rho-kinase Signaling Pathway in the Heart.2016
Author(s)
Yoshimitsu Yura, Mutsuki Amano, Mikito Takefuji, Tomohiro Bando, Kou Suzuki, Katsuhiro Kato, Tomonari Hamaguchi, Md. Hasanuzzaman Shohag, Tetsuya Takano, Yasuhiro Funahashi, Shinichi Nakamuta, Keisuke Kuroda, Tomoki Nishioka, Toyoaki Murohara, Kozo Kaibuchi
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Journal Title
Cell Structure and Function
Volume: 41
Pages: 105-120
DOI
Peer Reviewed
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[Presentation] Dopamine-induced phosphorylation of NPAS4 through MAPK regulates reward-related learning and memory.2017
Author(s)
Yasuhiro Funahashi, Anthony Ariza, Shan Wei, Sachi Kozawa, Keiichiro Okuda, Ko Suzuki, Tetsuya Takano, Yoshimitsu Yura, Keisuke Kuroda, Taku Nagai, Kozo Kaibuchi
Organizer
第90回日本薬理学会年会
Place of Presentation
長崎パブリックホール (長崎県長崎市)
Year and Date
2017-03-15 – 2017-03-17
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