2017 Fiscal Year Research-status Report
ドーパミンシグナルによる遺伝子発現と情動記憶の制御機構の解明
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16K18393
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
船橋 靖広 名古屋大学, 医学系研究科, 助教 (00749913)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | リン酸化 / プロテオミクス解析 / ドーパミン / 情動 / 学習 / 記憶 / 遺伝子発現 / 転写因子 |
Outline of Annual Research Achievements |
ドーパミンは線条体の中型有棘神経細胞に働き、D1受容体を介してPKAやMAPK(ERK)などの蛋白質リン酸化酵素を活性化する。これらの蛋白質リン酸化酵素は下流の蛋白質(基質)をリン酸化することで、神経細胞の興奮性や遺伝子発現を制御し、報酬関連行動とその学習・記憶の形成に貢献すると考えられている。しかしながら、ドーパミンがどのように遺伝子発現を制御し、報酬学習・記憶に関与しているのかについては不明な点が多い。 平成29年度は、前年度までにMAPKの基質として同定したNPAS4についてリン酸化の機能解析を行った。Phostag-SDS PAGEを用いた解析により、MAPKによるNPAS4のリン酸化部位(T423, T427, S577, S580, T611, S615)を同定した。培養線条体神経細胞に脱リン酸化酵素阻害剤やcAMP活性化剤(Forskolin)による刺激を行った結果、NPAS4のリン酸化が亢進し、そのリン酸化はMAP2K(MEK)阻害剤により抑制された。転写共役因子であるCBPとの結合を検討した結果、NPAS4のリン酸化によりCBPとの結合が増加し、リン酸化部位欠損変異体ではその結合が減少した。BDNFプロモーターなどを用いたレポーター解析を行った結果、MAPKによるNPAS4のリン酸化によりNPAS4の転写活性が増強した。コカインによる条件付け場所嗜好性試験を行った結果、側坐核のD1受容体発現細胞で特異的にNPAS4を欠損させたマウスでは、報酬学習能の低下が認められた。NPAS4欠損による報酬学習能の減少がNPAS4の野生型を発現させることで回復出来たのに対し、NPAS4のリン酸化部位変異体では回復できなかった。以上の結果から、NPAS4とそのリン酸化がCBPと共役してBDNFなどの遺伝子の発現を調節し、報酬学習・記憶に関与することが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は、以下の2つの項目について解析を行った。 (1)転写因子のリン酸化の評価とそのリン酸化による遺伝子発現の制御機構の解明: Phostag-SDS PAGEを用いた解析により、MAPKによるNPAS4のリン酸化部位(T423, T427, S577, S580, T611, S615)を同定した。NPAS4のリン酸変動を評価するため、NPAS4のリン酸化を特異的に認識する抗体を作製した。培養線条体神経細胞において、脱リン酸化酵素阻害剤やcAMP活性化剤の刺激により、NPAS4のリン酸化が亢進し、そのリン酸化はMAP2K(MEK)阻害剤により抑制された。転写共役因子であるCBPとの結合を検討した結果、NPAS4のリン酸化によりCBPとの結合が増加し、リン酸化部位欠損変異体ではその結合が減少した。BDNFプロモーターなどを用いたレポーター解析を行った結果、MAPKによるNPAS4のリン酸化によりNPAS4の転写活性が増強した。 (2)ドーパミンの下流で働く転写因子による情動記憶の制御機構の解明:NPAS4が報酬学習・記憶に関与するかどうかを検討するため、NPAS4のfloxマウスの側坐核にサブスタンスPプロモーターの下流でCreリコンビナーゼを発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)を導入し、側坐核のD1受容体発現細胞で特異的にNPAS4を欠損させた。コカインによる条件付け場所嗜好性試験を行った結果、NPAS4を欠損させたマウスでは、報酬学習能の低下が認められた。NPAS4欠損による報酬学習能の減少がNPAS4の野生型を発現させることで回復出来たのに対し、NPAS4のリン酸化部位変異体では回復できなかった。したがって、NPAS4とそのリン酸化が報酬学習・記憶に関与することが示唆された。 以上のことより、本年度研究開始時に立てた実施計画と目標はほぼ達成出来たと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、以下の2つの項目について解析を行う予定である。 (1)転写因子のリン酸化の評価とそのリン酸化による遺伝子発現の制御機構の解明:MAPKによるNPAS4のリン酸化解析はほぼ完了したため、平成30年度は、前年度までにMAPKの基質として同定したMKL2についてリン酸化の機能解析を行う。作製済の抗リン酸化抗体を用い、培養神経細胞や生体内におけるMKL2のリン酸化の状態を解析する。MKL2はcAMP活性化に依存して核移行するという予備的な結果を得ているため、MKL2リン酸化部位変異体を用い細胞内局在の変化を解析する。また、MKL2は血清応答因子SRF依存的にNPAS4やc-FOSなどの発現を制御する可能性があるため、レポーター解析や定量PCR解析を行い遺伝子の発現変化を解析する。 (2)ドーパミンの下流で働く転写因子による情動記憶の制御機構の解明: 前年度までに、NPAS4とそのリン酸化がBDNFなどの遺伝子の発現を調節し、報酬学習・記憶に関与することが示唆されたため、平成30年度はNPAS4の欠損マウスを用い、報酬学習・記憶形成時におけるNPAS4の標的となる遺伝子の発現を定量PCRにより解析する。また、NPAS4の標的遺伝子が報酬学習・記憶形成に関与するかどうかを条件付け場所嗜好性試験により解析する。 一方、MKL2が報酬学習・記憶に関与するかどうかを条件付け場所嗜好性試験により解析する。具体的には、MKL2のfloxマウスの側坐核にAAV-SP-Creを導入することで、D1受容体発現細胞で特異的にMKL2を欠損させる。MKL2リン酸化部位変異体を導入したAAVベクターをマウスの側坐核に導入することで、MAPKを介したMKL2のリン酸化による報酬学習・記憶の調節機構を解析する。
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Causes of Carryover |
一部の試薬・消耗品に関して前年度に購入した分でまかなうことが出来たため、次年度使用額が生じた。 マウスの購入費用やリン酸化変異体を発現するアデノ随伴ウイルスを作製・精製するための消耗品に使用する。 論文の投稿費用や成果を発表するための学会参加費用に使用する。
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Research Products
(2 results)