2016 Fiscal Year Research-status Report
神経-免疫連関による神経幹細胞の活動制御機構の解明
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16K18394
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
田辺 章悟 大阪大学, 医学系研究科, 特任助教(常勤) (40772166)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 脳発達 |
Outline of Annual Research Achievements |
神経幹細胞は脳発達期の側脳室周囲(増殖帯)に位置し、自己増殖をしながら神経細胞、グリア細胞に分化して脳に細胞を供給する。近年、神経幹細胞の増殖、分化を制御する因子として免疫系が強く寄与していることが明らかになっているが、その詳細なメカニズムは解明されていない。未成熟期での免疫系の異常が、様々な神経発達障害や精神疾患の原因になり得ることが指摘されているため、脳発達期における免疫系の機能解明は同疾患の病態解明のために極めて重要である。本研究では、末梢の免疫系細胞が神経幹細胞の挙動にどのような影響を及ぼすのかを解明する。これまでの研究により、脳発達期には自然免疫系に関わるNK細胞(Natural Killer 細胞)とB-1細胞が多く存在していることを明らかにした。そこで、発達期の脳よりこれらの細胞を除去したときに、神経幹細胞の挙動に変化が生じるのかを検証した。その結果、NK細胞を除去した際には神経前駆細胞の数が減少し、B-1細胞を除去した際にはオリゴデンドロサイト前駆細胞の数が減少することを見出した。B-1細胞とオリゴデンドロサイト前駆細胞との共培養実験を行った結果、オリゴデンドロサイト前駆細胞の増殖が促進された。これらの結果は、各免疫系細胞はそれぞれ異なる形で神経系細胞の発生に寄与していることを示唆している。今後は、NK細胞とB-1細胞による脳発達の分子メカニズムを解明することを目的に研究を遂行する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究開始当初は、発達期脳内の免疫系細胞数は少ないだろうと考えていた。しかし、実際に解析したところ発達期の脳では成熟期よりも格段に免疫系細胞の数が多く、機能を阻害したときの影響も大きかった。多く検出された免疫系細胞のうち、B-1細胞は成熟期では腹腔などの限られた箇所にしか存在しないタイプの免疫系細胞であり、発達期の脳に存在していたことは非常に興味深い。B-1細胞を抗体処理により除去すると、オリゴデンドロサイト前駆細胞の数が減少した。この結果は、B-1細胞がオリゴデンドロサイト前駆細胞の発生に寄与していることを示唆する。オリゴデンドロサイト前駆細胞は神経幹細胞から発生するとともに、自己増殖を繰り返すことでその数を制御している。B-1細胞がどのようにしてオリゴデンドロサイト前駆細胞の発生に関与しているのかを細胞培養実験により検討したところ、B-1細胞はオリゴデンドロサイト前駆細胞の増殖を促進することが明らかになった。 以上のことから、当初の計画から想定していなかった脳内の免疫系細胞を同定することができ、その機能を明らかにできたことから当初の計画以上に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
B-1細胞がオリゴデンドロサイト前駆細胞の増殖を促進することは明らかにした。今後はその分子メカニズムを明らかにする。B-1細胞は自然抗体を産生することで異物の除去にあたる自然免疫系の細胞である。B-1細胞が自然抗体を通じてオリゴデンドロサイト前駆細胞の増殖を促進している可能性に着目する。実際、B-1細胞とオリゴデンドロサイト前駆細胞の共培養実験により、自然抗体を機能阻害するとオリゴデンドロサイト前駆細胞の増殖効果が抑制される予備的実験結果を得た。今後は、in vivoで自然抗体の機能を阻害し、B-1細胞が自然抗体によりオリゴデンドロサイト前駆細胞の増殖を促進するのかを検証する。 また、NK細胞は神経前駆細胞の増殖を促進する。遺伝子発現解析により、増殖を促進する候補因子を同定した。今後は、遺伝子組み換えマウスを用いてこの候補因子が神経前駆細胞の増殖に寄与しているのかを検証する。
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