2016 Fiscal Year Research-status Report
興奮性及び抑制性神経伝達物質によるシナプス小胞再充填機構の比較解析
Project/Area Number |
16K18397
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
江頭 良明 同志社大学, 研究開発推進機構, 助教 (80582410)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 抑制性シナプス / GABA / シナプス小胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
哺乳類中枢神経系では、グルタミン酸が興奮性シナプス伝達を、GABAが抑制性シナプス伝達を担っている。いずれの神経伝達物質も、シナプス小胞膜上にある液胞性H+-ATPase(V-ATPase)によって形成されたH+の電気化学的勾配を駆動力にして小胞内に充填される。小胞内の伝達物質量がシナプス伝達の最小構成単位になることから、グルタミン酸とGABAの小胞充填機構の違いは、脳の興奮性・抑制性を左右する最も基礎的な要素として関心を集めてきた。しかしながら、グルタミン酸・GABAいずれの充填機構についても十分なコンセンサスが得られるには至っていない。特に、小胞充填に伴うH+とCl-の挙動について、複数の説が提唱されている。この要因の一つとして、これまでの研究が、精製した小胞等、生理的環境にない標本を対象にしてきたことがあげられる。そこで私は、培養神経細胞の機能的シナプスにおいて、小胞内H+動態及びCl-動態の定量的解析に取り組んでいる。これまでに、グルタミン酸シナプス小胞へのH+の蓄積がグルタミン酸の取込みの速度と類似していることを明らかにし論文として報告している。本研究課題の初年度では、小胞内のpH動態をグルタミン酸小胞とGABA小胞で比較解析を行い、二つのシナプス小胞でpH動態が大きく異なることを示した。さらにその違いの原因を詳細に解析することで、GABAとH+の対向輸送が生じていることを支持する結果が得られた。今年度はこの研究結果を論文として報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、グルタミン酸を充填する興奮性シナプス小胞とGABAを充填する抑制性シナプス小胞の小胞内pH及びCl-動態を比較解析することで、それぞれの神経伝達物質の小胞内輸送メカニズムについて理解することを目指している。初年度では、小胞内のpH動態について比較解析を行うことを計画しており、実際に二つのシナプス小胞で定常状態のpHとそこに到達するまでのpH動態が大きく異なることを明らかにした。特に重要な知見として、GABA性シナプス小胞のpH動態が、酸性化の相とアルカリ化の相を合わせ持つ二相性の変化を示すことがわかった。この特徴的なpH動態とGABAの小胞充填メカニズムの関連を調べるために、vesicular GABA transporterのコンディショナルノックアウト動物から作成した培養神経細胞を用いた解析を行った。その結果、GABAの小胞充填にはH+の対向輸送が共役していることを強く支持する結果が得られ、これは大変重要な知見であるため、論文として報告するにいたった。以上の研究経過は当初の計画・目標を十分に達成していると考える。一方で残された課題は、興奮性シナプス小胞では、グルタミン酸の輸送に伴うH+の移動が存在するかどうかである。この点については、vesicular glutamate transporter (VGLUT)の欠損動物を利用した実験を行う必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度は、シナプス小胞内のpH動態について、グルタミン酸性シナプスとGABA性シナプスとの比較解析を行うとともに、GABAの取込みを欠損したGABA性シナプスでの解析も行った。これによりGABAの小胞充填メカニズムについての理解が得られたように、グルタミン酸の取込みを欠損した興奮性シナプス小胞について同様の解析を行うことで、グルタミン酸の小胞充填メカニズムについての知見が得られると期待される。そこで、次の課題としてVGLUT1ノックアウトマウスを利用した実験を計画している。しかし、そのためには解決が望まれる問題がいくつか存在する。その一つに、初年度にVGAT Venusトランスジェニックマウスを用いて示したように、GABA性シナプス小胞とグルタミン酸性シナプス小胞とではpH動態が大きくことなるため、できるかぎりGABA性シナプスを解析から除外しなければならないことがある。この問題の解決法としては、VGAT VenusトランスジェニックマウスとVGLUT1ノックアウトマウスを掛け合わせてダブルトランスジェニックマウスを作成することがあるが、これは研究の効率を大きく制約するだけでなく、汎用性の観点からも望ましくない。そこで現在検討を行っているのが、より興奮性神経細胞への選択性の高い遺伝子発現プロモーターの探索である。現在までに従来のプロモーターよりも3~4倍程度選択性の高い配列を同定している。この配列を組み込んだウイルスベクターの実用化によって、VGLUT1欠損細胞でのpH測定がより正確かつ効率的に進展すると期待される。また当初の計画にある小胞内のCl-動態の定量に着手するためにも、この技術の確立は重要である。
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Research Products
(3 results)