2016 Fiscal Year Research-status Report
次世代ヒト化NOGマウスによるヒト腫瘍微小環境の再構築-がん免疫療法評価系の開発
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16K18404
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Research Institution | Central Institute for Experimental Animals |
Principal Investigator |
花澤 麻美 公益財団法人実験動物中央研究所, 実験動物研究部, 研究員 (40633334)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 腫瘍モデル動物 / ヒト化マウス / IL-6 Tgマウス / 腫瘍微小環境 / TAM / MDSC |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題は、ヒトの血液細胞を生着させた免疫系ヒト化マウスを用いてヒトの腫瘍微小環境を再現したモデル動物を樹立し、多様化するがん治療の為の新たな創薬評価系を確立することを目的とする。特に、腫瘍関連マクロファージ(TAM)や免疫抑制性骨髄系細胞(MDSC)といった宿主の免疫機構を抑制する骨髄系細胞の誘導を目指す。 平成28年度には、既に樹立されているヒトIL-6を発現させたNOGマウス(NOG hIL-6 Tgマウス)を用いたヒト腫瘍モデルの免疫特性解析を行った。本マウスでは、従来のNOGマウスでは不十分であったヒト骨髄系細胞の誘導が促進され、ヒト腫瘍細胞を移植した際には腫瘍内にヒト骨髄系細胞の浸潤がみられる。そこで、これらの腫瘍内ヒト骨髄系細胞ががん患者に現れるTAMやMDSCと同様の性質・能力を持つか否かを解析した。はじめに、TAMにおいて高発現する表面分子であるCD163やIL-4レセプター、あるいは免疫抑制因子であるArginase1の発現について解析したところ、腫瘍内に存在する骨髄系細胞のみがこれらのマーカーを発現していた。次に、これらの細胞が、抗腫瘍に働く代表的な細胞であるT細胞の増殖や活性を抑制する能力があるか否かを解析した。その結果、腫瘍由来のヒト骨髄系細胞とヒトT細胞を共培養した際に、T細胞の増殖が抑制されることを見出した。 一方で、腫瘍モデルマウス作製の為の新たな遺伝子改変NOGマウスとして、ヒト単球・マクロファージの誘導を促すヒトM-CSF発現マウス、ヒト骨髄系細胞の誘導を促すヒトトロンボポイエチン(TPO)発現マウス、マウス骨髄系細胞の除去あるいは腫瘍内への遊走阻害を目的としたG-CSFレセプター、CCR2ならびにCXCR2欠損マウスを作製した。これらのマウスについては、現在、ヒト造血幹細胞を移植した際の特性を解析している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題は下記の(A)腫瘍免疫に関わる創薬評価のためのヒト腫瘍モデルの確立、(B)腫瘍モデル作製の為の新たな遺伝子改変NOGマウスの作製、の二つの側面から進めた。 (A)NOG hIL-6 Tgマウスを用いたヒト腫瘍モデルにおいて誘導されたMDSC、TAMは、宿主免疫を抑制することで腫瘍を増大させるのか、その免疫特性の解析を目標とした。腫瘍内に存在するヒト骨髄系細胞(特に単球、マクロファージ)はMDSC、TAMに高発現する表面分子であるCD163やIL-4レセプター、さらに免疫抑制因子Arginase1を発現していること、ex vivoにおいてヒトT細胞を腫瘍由来ヒト骨髄系細胞と共培養した際にはT細胞の増殖が抑制されること等を明らかとし、その特性ががん患者体内のMDSC、TAMに類似であることを示すことに成功した。一方で、計画にある各種免疫抑制因子のRT-PCRによる定量やマイクロアレイを用いた患者由来MDSC、TAMとの比較は、マウスからの必要細胞数の回収に困難があったために達成できなかった。よって、本課題はおおむね順調に進展していると判断する。 (B)ヒト単球・マクロファージの誘導を促進するNOG hM-CSF Tgマウス、骨髄系細胞の分化促進ならびに造血幹細胞の維持を促すNOG hTPO KIマウスの作製に成功した。さらに、現存のモデルではマウス由来のMDSC、TAMのヒト腫瘍への影響が否定できないため、マウス骨髄系細胞の欠損あるいは腫瘍内への遊走阻害を目的として、NOG mG-CSFR KOマウス、NOG mCCR2 KOマウス、NOG mCXCR2 KOマウスをCRISPR/Cas9を用いて作製した。初年度に上記の5系統の遺伝子改変動物の作製に成功したため、計画は順調に進んでいると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
(A)平成28年度に達成できなかったMDSC、TAMから産生される各種免疫抑制因子等のRT-PCRによる定量を継続して行う。解析に必要な細胞数の獲得が困難であったが、既に組織からの細胞分離方法を確立しており、平成29年度に解析を行うことができる。マイクロアレイによるがん患者由来MDSC、TAMとヒト化マウス由来MDSC、TAMの比較についても、同様の方法を用いて必要細胞数の回収に努める。上記の実験が終了した後、NOG hIL-6 Tgマウスを用いたヒト腫瘍モデルについて、学術論文として報告することを目標とする。 さらに、NOG hIL-6 TgマウスにヒトMDSC、TAMが誘導されていることを証明した後、本ヒト腫瘍モデルマウスを用いたMDSC、TAM誘導機構の解明を行う。MDSC、TAMを誘導する因子として、M-CSFやIL-6など複数の因子が報告されているが、このうちのどのサイトカインがより誘導に重要であるのかを特定する。はじめに、MDSC、TAMの誘導を確認した腫瘍株について、産生サイトカインのプロファイルを作製する。その後、各々のMDSC、TAM誘導因子を欠損した遺伝子改変腫瘍株をCRISPR/Cas9を用いて作製する。作製した各株をヒト化NOG hIL-6 Tgマウスに移植した際のMDSC、TAM誘導能を比較することで、どの因子がMDSC、TAMの誘導に重要であるかを解明する。 (B)平成28年度に作製したヒト骨髄系細胞誘導マウス(NOG hM-CSF Tgマウス、NOG hTPO Tgマウス)にヒト造血幹細胞を移植し、その特性を解析する。マウス骨髄系細胞欠損マウス(NOG mG-CSFR KOマウス、NOG mCCR2 KOマウス等)は、交配によりホモ個体を作出した後、マウス骨髄系細胞細胞の欠損や減少、担がん時に腫瘍内へ浸潤するマウス細胞数の減少等を確認する。
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Causes of Carryover |
本課題は所属研究所にとって重要な研究テーマであったため、科研費取得以前に自主研究費を用いて研究をスタートさせていた。よって、申請時に見込んでいた初期のセットアップ費用が大幅に減額された。また、平成28年度に予定していたマイクロアレイについても年度内には測定に至らなかったため、本件の費用が次年度に繰り越しとなる。以上の理由により、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記に記載した通り、マイクロアレイの測定費用としての500,000円が平成29年度に繰り越しとなる。また、当初の予定よりも蛍光標識抗体や組織分散試薬等の試薬類、ELISA kitやMultiplex kit等のキット類の費用の増額が懸念されるため、平成28年度からの繰り越し金はこれら消耗品の購入に充当する。
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