2016 Fiscal Year Research-status Report
非コードRNAを介した遺伝子発現制御によるマクロな適応現象の解明
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16K18477
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小田 有沙 東京大学, 教養学部, 特任助教 (00760084)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | グルコース飢餓ストレス応答 |
Outline of Annual Research Achievements |
今日までの科学研究において、様々なシグナルのパスウェイやネットワーク、分子レベルでの遺伝子の機能や制御について詳細に解析がなされ、膨大なデータの蓄積がなされてきた。しかし、そのタンパク質や核酸などの分子レベルでの生体内反応のひとつひとつの変化が統合して、複雑な生命の細胞や個体の動態としてどのような生命現象としてあらわれるのかということは解析するのは難しい。 本研究では、分子レベルでの遺伝子発現制御が、細胞・細胞集団のマクロな生命現象・生存戦略へと及ぼす効果を明らかにすることを目的とする。このため、単細胞のモデル生物として有用な分裂酵母を用いて、生命に必須なグルコースの飢餓ストレスへの応答の様子について、環境応答時の遺伝子発現制御と、細胞の動態を観察した。平成28年度は、分子レベルでのストレス応答と細胞の適応度に関して、定量的な指標を測定できる実験系を確立し、これらの要素の相関を数理モデル解析するために必要となる、基礎的なデータの収集を行なった。特に、ヒトをはじめとする高等生物において、非コードRNAやヒストン修飾などのエピジェネティックな因子群は、様々な工事の生命現象の遺伝子発現制御において重要な役割を果たすことが知られる。原生生物に多くみられるシンプルなオペロン型の制御ではなく、真核生物で多く見られる非コードRNA・エピジェネティクス因子が遺伝子発現の制御に介在している意義を、環境適応時の細胞・細胞集団の生存戦略という切り口から解析することを試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は、分裂酵母(S. pombe)の培地中のグルコース濃度を変化させ、グルコース飢餓ストレス応答性の遺伝子発現レベルを調べることで、「飢餓」あるいはストレス状態、と認識される環境を調べ、その時の非コードRNAの発現応答を分子生物学的なツールを用いて定量的に確認することを目標としていた。また、分子レベルと、細胞・細胞集団での応答の関連を調べるために、グルコース飢餓ストレス時の細胞の適応状態を定量的に評価する系をたちあげる計画であり、これらを実施した。 具体的には、平成28年度の研究で、非コードRNAが飢餓応答で果たす機能を調べるために、非コードRNA非依存的と独立にグルコース飢餓ストレス応答遺伝子の発現が制御されている株の作成を行なった。また、想定外なことに、非コードRNAを転写するのに無関係と思われていたゲノム領域に変異を入れると、グルコース飢餓ストレス非依存的に非コードRNA自体の発現応答に影響が出る株も得られた。さらに、細胞、細胞集団のグルコース飢餓ストレスへの適応度合いを観察するための指標として増殖速度を経時的に測定する基本的な実験系や実験条件を整えた。また、ストレス応答に必須の酵素のポリクローナル抗体を作成し、タンパク質レベルでの発現応答の検出が可能とした。前述の株などを用い、様々なグルコース飢餓ストレス条件下における細胞の応答の様子をノザンブロットやウエスタンブロットで定量的に評価する実験が進行中である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度に引き続き、様々な強度のグルコース飢餓ストレスへの応答性を、遺伝子発現を制御する非コードRNAの変異体を用いて検証する。 当初の計画通り、また、マイクロ流路デバイスを用いて、1細胞ごとのグルコース飢餓ストレス応答性遺伝子の発現のタイミングやばらつきを観察する。このために、まず、飢餓ストレス応答遺伝子に蛍光タグを付与した株を樹立し、マイクロ流路デバイスでの観察システムを導入する。この実験系を用いて、グルコース飢餓ストレスの早期の遺伝子発現応答を蛍光顕微鏡で経時観察する。また、FACSなどを用いて、細胞集団としてのグルコース飢餓ストレスの動向を観測する。 これらと平成28年度に得られた実験データをもとに、どの程度のグルコース飢餓ストレスで分子応答・ストレス適応応答が起こるのか、をシミュレーションするための数理モデルを構築し、細胞が、飢餓ストレスに応答する際の、生存戦略を理論的に解析する。
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Causes of Carryover |
分裂酵母の変異株の作成に関して、予想外の形質の変異株が取れたため、その形質の確認に当初の予定よりも時間がかかり、一部の実験については分子生物学試薬の購入が遅れた。 また、28年度には数理シミュレーション用のコンピューターと周辺機器を購入する予定であったが、28年度は、予定の一部のみを購入した。これは新製品の更新のタイミングの都合上であり、一部の購入を予定していて28年度に買えなかった物品に関しては、29年度に購入することとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度に実施を予定していた一部の分子生物学実験を実行するために、試薬の購入を行う。 また、平成28年度に購入を見送ったコンピューター関連機器を購入する予定である。
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