2016 Fiscal Year Research-status Report
環境DNA解読によるニホンウナギ生息場所の重要性評価手法の開発
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16K18485
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
田邉 晶史 神戸大学, 理学研究科, 学術研究員 (40549044)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 環境DNA / ニホンウナギ / 生息場所 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年9月、予定通り鹿児島県枕崎市の花渡川・枕崎湾の17地点において環境DNAの採集を行った。採集では、小孔径ながら目詰りしにくいと言われているメルクミリポアのSterivex-GPカートリッジフィルター(孔径0.22μm)を使用し、JMS社100mLシリンジJS-S00Sを用いて500mLの河川水または海水を現地で採水後にすぐ濾過した。降雨によって濁水となってしまった日があったため、地点によっては目詰りしてしまい、カートリッジ4本を用いて125mLずつ濾過したような地点もあるが、いずれの地点でも500mLの濾過は達成している。濾過したフィルターはすぐに保冷バッグに入れ、その日のうちに-20℃で冷凍した。持ち帰った後も-20℃で保管している。 また、ニホンウナギの環境DNAのみを特異的に増幅するため、近縁種であるオオウナギを含めてミトコンドリアDNAのD-loop領域配列を公開データベースから取得、多重整列を行い、ニホンウナギ種内では変異がなく、オオウナギでは一致しない箇所が3'末端になるようプライマーを作成した。作成したプライマーは、NCBIのPrimer-BLASTを用いて、ニホンウナギのミトコンドリアDNA・D-loop領域に一致すること、ニホンウナギゲノムの別領域や、生息場所が重複する他種ゲノムには一致しないことを確認した。現在、合成したプライマーを用いて、ニホンウナギとオオウナギのDNAを鋳型としてPCRを行い、確認を行っている。 平成28年度の調査より、Sterivex-GPとシリンジによる手作業の濾過では1サンプルの濾過にかかる時間が長すぎ、大量のサンプルを短時間で得ることは難しいことが判明した。そこで、今後はYamanaka et al. (2016)で公表された現場濾過装置を用いる予定である。著者の組み立てた実物を視察した上で、既に部品を調達し、現在組み立てを行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
環境DNAの採集後、すぐにDNA抽出を行う予定であったが、1月末をもって前所属を退職し、2月から神戸大学へ移籍することが決まったため、業務の引き継ぎや自宅の引っ越し、機材の運搬に忙殺されてしまい、作業が実施できなかった。また、前所属である水産研究・教育機構では、科研費購入物品でも10万円より備品登録し、備品登録された物品は移籍に際して移管手続きに応じない(実際に濾過用吸引ポンプを移管できなかった)ため、科研費による機材購入を控えざるを得ず、必要な機材の調達が遅れることになってしまった。これらの理由により、進捗に遅延が生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
プライマーの種および領域特異性が確認出来次第、平成28年度に採集したサンプル群の分析を行う。また、海洋ではニホンウナギ個体数に対して水量が圧倒的に多いと考えられ、ニホンウナギ環境DNAは河川よりもずっと希釈されてしまうと考えられる。そのため、同じ個体数がいても、環境DNAから検出できない可能性が高まる。検出率が河川と海洋で異なれば、当然河川と海洋のハプロタイプ数は比較できなくなってしまう。そこで、「検出率」を潜在変数とする統計モデリングを行い、未検出のハプロタイプも含めたその地点のハプロタイプ数を推定する。この方法では、1地点のレプリケート間における検出ハプロタイプの重複具合から検出率を推定する。つまり、1地点から複数のサンプルレプリケートを採集する必要がある。そこで、概要で述べたようにYamanaka et al. (2016)で公表された現場濾過装置を用いる予定である。また、迅速にかつできるだけ多くの水を濾過できるよう、最適な濾過フィルターを選定する。
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Causes of Carryover |
野外採集における助手を雇用する予定だったが、一人でも濾過採集可能なシステムを構築することができたため不要になった。また、神戸大学へ移籍することが決まったため、業務の引き継ぎや自宅の引っ越し、機材の運搬に忙殺されてしまい、採集したサンプルの分析作業が実施できなかった。したがって、この作業の助手の謝金も支出がなくなった。さらに、分析の遅れのため、DNA解読の受託解析も順延となり、この支出も翌年に繰り越すこととなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前所属では分析用機材が揃っていたが、移籍先の神戸大学では様々な機材が不足しており、このため、いくらか機材を調達する必要が生じている。しかし、野外調査助手が不要になり、また、業務の減少により割けるエフォートが増加したため、分析作業の助手も不要になった。そこで、この人件費が不要になった分を機材の調達に利用したいと考えている。また、平成28年度に行えなかったDNA解読の受託解析は、29年度にまとめて行う。
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