2016 Fiscal Year Research-status Report
放射光を用いたヒトノイラミニダーゼの細胞内結晶構造解析
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16K18507
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
小祝 孝太郎 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 研究員 (60620721)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | リソソーム病 / ガラクトシアリドーシス / シアリドーシス / ノイラミニダーゼ / NEU1 / 細胞内結晶 / 再結晶化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、糖鎖分解酵素ヒトノイラミニダーゼ1(NEU1)の分子構造を決定することによって、特定疾患難病のリソソーム病であるガラクトシアリドーシス(GSD)およびシアリドーシス(SD)を引き起こす変異がなぜNEU1のノイラミニダーゼ活性を減少させるのか、その原因を解明することを目的としている。 その目的の実現のために、本研究では、NEU1蛋白質が細胞内で結晶化するという極めて特徴的な性質を利用し、NEU1細胞内結晶から、放射光を用いてNEU1分子の構造を決定する計画である。もしくは、細胞内結晶を一度抽出し、溶解した後、再度試験管内で結晶化し(再結晶化し)構造決定する計画である。 本研究はNEU1の構造解析と難病GSD・SDの治療法の確立という点で医学的、学術的に重要であるのみならず、細胞内結晶から構造を決定できる包括的なシステムの構築を目指しており、構造生命科学・創薬の点において画期的なブレイクスルーとなることが期待される。 本年度の実施計画は、NEU1細胞内結晶を大量に抽出するための手法を確立し、細胞内結晶から直接データ収集を行う計画であり、本研究者はその計画通り、その手法を確立し、データ収集に成功した。得られたデータは結晶構造解析が可能であったが、細胞内結晶から直接NEU1の分子構造を解明することは困難であることが明らかとなった。本点は、本計画の当初に予想された懸念される点であったため、予備の研究計画を遂行した。予備の研究計画では、NEU1細胞内結晶を大量に調製し、一度抽出し溶解した後、蛋白質を精製し、試験管内で再度結晶化する計画であり、当初の計画以上に大量の細胞内結晶を調製する手法を確立し、高純度の蛋白質溶液を調製することに成功した。以上の成果は、今後のNEU1の再結晶化と構造決定に繋がる進展のみならず、他の細胞内結晶化蛋白質にも応用することが可能なものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画では、本年度では、NEU1の細胞内結晶の大量抽出の手法を確立し、それを用いて抽出したNEU1の結晶からX線データの収集を行う計画であった。 まず、抽出法の確立については、計画通り、10 cm dish 2枚で行っていた予備実験からスケールアップし、計画していた1.5×10の7乗個を上回る2.0×10の7乗個のNEU1細胞内結晶の抽出と調製に成功した。また、培養方法を接着培養から、懸濁培養に変更することで、より大量の細胞内結晶を定期的に得ることができるように手法を改良することに成功した。 X線データの収集を行う計画については、計画通り、上述のように調製した、NEU1細胞内結晶を用いて、X線回折実験を行ったところ、NEU1細胞内結晶の結晶構造を解析するに十分なデータを収集することに成功した。そのデータからNEU1の分子構造を決定することは困難であることが明らかとなったが、予備の計画を遂行し、NEU1蛋白質の再結晶化に取り組んだ。上述の改良した手法を用いることによって、一回当りのNEU1蛋白質の収量は、計画していた0.3 mgを上回る0.5 mgを得られるようになり、再結晶化の条件の網羅的な探索を実施した。 当初の計画では、平成28年度内に再結晶化結晶を作成し、データ収集を行う計画であったが、再結晶化結晶の作成には至らなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画では、平成28年度内にNEU1の分子構造決定可能な細胞内結晶、もしくは、試験管内再結晶化結晶を調製しデータ収集を行う計画であったが、分子構造の決定には至らなかった。本年度内にNEU1の良質な結晶を作成し、分子構造を決定するためには、より多くの蛋白質溶液を調製し、結晶化条件の網羅的な探索の範囲を広げる必要がある。 蛋白質の結晶化に重要な点は、結晶化に適した蛋白質発現系を構築することと、良質な蛋白質を調製することである。 結晶化に適した蛋白質発現系を構築することは、蛋白質結晶化を試みる上での始めの段階であるが、その発現系が適切であるか否かは、最終的に結晶が析出するまで不明であり、通常多大な労力と時間を必要とする。しかしながら、本研究で用いているNEU1蛋白質は、すでに細胞内で結晶化しているため、用いている蛋白質発現系は結晶化に適したものであることが保証されている。 また、良質な蛋白質を調製するにあたり、主にゲルろかカラムクロマトグラフィなどによって、品質を評価することが可能である。本年度、NEU1の細胞内結晶を抽出し、溶解した蛋白質溶液を精製後、ゲルろかカラムクロマトグラフィによって品質を評価したところ、単量体の単分散の性質であった。すなわち、結晶化に適した良質な試料であった。 以上を踏まえ今後の推進方策をまとめると、平成28年度内に確立した手法を用いて、大量に細胞内結晶を調製し、蛋白質試料をより広範囲の結晶化条件探索に用いることで本年度内に良質な結晶が得られ、NEU1の分子構造の決定に至るものだと考える。
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Causes of Carryover |
物品費について、形質導入試薬と結晶抽出用試薬を計上していたが、手法を改良することによって、削減されたため差額が生じた。 国内出張費として、兵庫県佐用郡SPring-8への出張費を計上していたが、申請者の属するPhoton Factoryにて、ビームタイムを確保できたため、それが不要となり差額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本差額は次年度、推進方策に記載の通り、より多量の結晶の調製が必要となり、当初の計画以上に細胞培養用容器と細胞培養用培地が必要となるためそれらに用いる。
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Research Products
(5 results)