2017 Fiscal Year Research-status Report
プロテオロドプシンのプロトン輸送方向の制御メカニズムの解明
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16K18519
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Research Institution | Matsuyama University |
Principal Investigator |
田母神 淳 松山大学, 薬学部, 助教 (30580089)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 生体エネルギー変換 / 微生物型ロドプシン / レチナール / フォトサイクル / プロトン移動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、海洋真正細菌由来の光駆動H+ポンプであるプロテオロドプシン(PR)のアルカリ性条件下におけるH+輸送方向の逆転のメカニズムを探ることを目的としている。本年度は、この機構についてアミノ酸レベルまで掘り下げて考察するために、部位特異的にアミノ酸に変異を導入し、フォトサイクルおよびH+移動に及ぼす影響について調べた。変異を導入した箇所は、7本の膜貫通αへリックスの内のCへリックス上にあるD97残基である。この残基は、PRの膜貫通領域の細胞外側に位置し、レチナールシッフ塩基のH+アクセプターと呼ばれる残基で、H+移動および外向きのH+輸送が起こるために不可欠な残基として知られている。この残基を中性のAsnに置換したD97Nのフォトサイクルについて、閃光光分解法を用いて調べた。中性のpH条件下における常温での実験の結果、フォトサイクル時にシッフ塩基からD97へとH+が移動したことを表すM中間体の形成がこの変異体では見られなかった。一方、pH 7よりもアルカリ性にしたところ、M様の中間体の生成が観測された。しかも、同条件下においてインジウム・酸化スズ(ITO)透明電極を用いた実験により、H+移動が起こるかどうかについて調べたところ、H+が最初に放出され、次いで取り込まれることがわかった。このH+移動の順番は、野生型PRのアルカリ性条件下で見られたH+移動の順番とよく合致する。このことから、野生型PRとD97N変異体では、ともにアルカリ性条件下でのM様中間体の形成およびそのときに起こるH+移動機構が類似することが示唆された。この結果は、PRではアルカリ性になると、シッフ塩基のH+が細胞外側に位置するD97ではなく、細胞内側の何かのアミノ酸残基に移動するかもしくは直接、細胞内側の溶液中へと放出されること、またそれによって内向きのH+輸送を誘発させる可能性があることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
PRの外向きH+輸送に重要だと考えられている2つのアミノ酸残基の内、D97に関しては変異体による実験から、アルカリ性条件下でのH+移動がこの残基を介して起きていないことを示唆する結果を得ることができた。しかしながら、細胞内側の膜貫通領域に存在するもう1つの重要残基E108については、そのアミノ酸置換体の光反応について十分な測定・解析を行うことができなかった。この残基を様々なアミノ酸(Ala、Asp、Gln、Tyr、Cys、Lys、Arg、Hisなど)に置換した変異体の作製はすでに終了しているため、これらの変異体については引き続き実験を進める予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度実施したD97N変異体の実験から、アルカリ性の条件下ではシッフ塩基からのH+移動にD97が関与していないことがわかり、この条件下におけるシッフ塩基から細胞内側へのH+移動の可能性がさらに強まった。そこで、改めて細胞内側の膜貫通領域に存在するアミノ酸残基に注目し、今後は上記のE108残基に加えて、その他のアルカリ性でのH+移動に関与する可能性のある様々なアミノ酸残基(例えばチロシン残基など)についても変異体を作製し、機能に及ぼす影響について調べる予定である。また、D97Nでも実際に野生型PR同様に、アルカリ性条件下でH+の細胞外側から内側への輸送を示す内向き電流の成分が観測されるかどうかは興味深い課題であるので、今後、絶縁体薄膜を用いた光誘起電流の測定実験などを実施し、明らかにしていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
本年度に計画していた変異体実験にかかる費用の内、年度内に外注が間に合わなかった変異体発現プラスミド作製用のプライマー注文のためのオリゴDNA合成費用が残ったため、次年度に繰り越すこととした。本年度の未使用額の使用用途については、次年度に入ってから、すべて当初の計画通り、上記のオリゴDNA合成費へとあてる予定である。
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[Presentation] Existence of two O intermediates in the photocycle of Acetabularia rhodopsin II, a light-driven algal proton pump2017
Author(s)
Jun Tamogami, Takashi Kikukawa, Toshifumi Nara, Makoto Demura, Tomomi Kimura-Someya, Mikako Shirouzu, Shigeyuki Yokoyama, Seiji Miyauchi, Kazumi Shimono, Naoki Kamo
Organizer
日本生物物理学会第55回年会
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