2016 Fiscal Year Research-status Report
ショウジョウバエ求愛行動をモデルとした視覚認知と行動選択の神経機構の研究
Project/Area Number |
16K18582
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
古波津 創 東北大学, 生命科学研究科, 研究支援者 (40571930)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ショウジョウバエ / 求愛行動 / 本能行動 / 視覚 / fruitless / 光遺伝学 / カルシウムイメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
雄のショウジョウバエは、雌への定位、求愛歌の生成、口吻の伸展といった複数の要素的行動を切り替えながら雌に求愛し、最終的に交尾に至る。本研究では求愛行動の視覚性制御様式の詳細とその神経基盤の解明を通して、要素的行動を協調的に発現させ「求愛」というまとまりのある行動を生み出す神経機構の一端を、同定介在ニューロン群の機能に基づいて理解することを目的とした。 平成28年度は、仮想現実を利用した視覚行動解析により求愛行動要素の発現調節に関わる視覚刺激の詳細を明らかにした。実験ではまずトレッドミル上に雄を拘束し、求愛中枢を構成する神経細胞群を光遺伝学的に強制活性化して求愛行動を人為的に活性化した。その状態の雄にコンピュータディスプレイを用いて様々な視覚パターンを呈示し、これにより生じる視覚誘導性の求愛行動要素を定量的に評価した。その結果、明暗格子パターンの移動方向と速度、呈示される視野中の領域を適切に設定することにより、求愛行動の最終段階にみられる「腹部の屈曲」を含む、ほぼ全ての求愛行動要素を惹起できることがわかった。またこれらの視覚刺激を雌フェロモン刺激と対呈示することにより、野生型個体においても同様の行動が惹起できた。 次にこれらの視覚刺激の受容、伝達を担う視覚系介在ニューロン群をin vivo機能イメージングを用いて探索した。性決定遺伝子fruiteless(fru)を発現する複数の視覚系介在ニューロン群が分枝する脳領域の一つであるoptic tubercleにおいて、上記の視覚刺激呈示下でCa2+応答が記録された。興味深いことに、このCa2+応答の強度は刺激呈示時に実験個体がトレッドミル上を歩行している場合に増大する傾向を示した。これらのfru発現視覚系介在ニューロン群が求愛行動制御に関与すること、その活動は個体の行動状態を反映した修飾を受けることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の目標の一つである、求愛時の行動選択に寄与する視覚刺激の同定は達成できた。これによりショウジョウバエ雄の求愛行動レパートリーのほぼ全てを、拘束条件下でなおかつ人為的操作のみによって惹起可能になった。この結果は今後、神経回路レベルの解析を進める上での技術的基礎となることに加え、求愛中の雄の行動選択における視覚の重要性を明確に示す点でも重要な意味を持つ。また、平成29年度に行う予定のCa2+イメージングと光遺伝学を組み合わせた実験のための光学系のセットアップおよび制御ソフトウェアの改良を行い、in vivo, ex vivoいずれにおいてもイメージング記録中に任意のタイミングで光刺激を行える体制を確立した。現在はイメージング系と光刺激系との干渉を最小化するための実験条件の検討を進めており、平成29年度の早い段階で実験を実施できると期待できる。他方、インターセクション法によりfru発現視覚系介在ニューロン群選択的に外来遺伝子発現を惹起するためのドライバー系統(Gal4またはlexA系統)を得るため、optic tubercleに顕著な分枝をもつ候補系統のうちストックセンターから入手可能な35系統をスクリーニングしたが、望む系統は得られなかった。このため、計画していた神経毒遺伝子等を利用した神経機能阻害実験は実施できていない。これを受けて、当初の予定を前倒ししてin vivo機能イメージング実験を開始し、サブクラスレベルでの同定はできていないものの、optic tubercleに分枝するfru発現介在ニューロン群が視覚刺激下で行動実験の結果と矛盾しない応答を示すという知見を得た。以上から、当初の計画からは若干の変更があるものの、研究全体としては概ね順調に進捗していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、①前年度に応答を記録したfru発現視覚系介在ニューロン群を機能的・解剖学的に同定し、②それらの視覚系ニューロン群と求愛行動制御の中核を担う介在ニューロン群pC1, pC2lニューロン群との間の機能上の関係を探る。その具体的な方策は以下の通りである。 ①前年度に引き続きインターセクション法に利用可能なドライバー系統の探索を行う。期待するドライバー系統が得られた場合は、まずGFP を発現させて標識されるニューロン群が属するfru発現ニューロン群サブクラスタを同定する。その上でCa2+センサーを導入して前年と同様の条件でイメージング実験を行い、その応答特性の詳細を明らかにする。さらに神経毒遺伝子等を用いた機能阻害実験を行い、その行動上の役割を明らかにする。もし仮に再度のスクリーニングによっても期待するドライバー系統が得られない場合は、モザイク解析法(MARCM法)を用いて同様の実験を実施する。 ②機能イメージングと光遺伝学を併用し、着目したニューロン群間の機能的接続関係を探る。独立に機能する2つの導入遺伝子発現システム(Gal4/UASシステム、lexA/lexAopシステム)を使い、pC1、pC2lを含むニューロン集団、fru発現視覚系介在ニューロン群のそれぞれにCa2+センサーGCaMP6mまたは赤色光応答型チャネルロドプシンCsChrimsonを発現させ、in vivoまたはex vivo系において、一方のニューロン群の光刺激が他方のニューロン群のCa2+活動に及ぼす影響を解析する。これにより、これらのニューロン群間に機能的な接続があるかを検討する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額は、平成28年度分助成金を使用した結果、端数として生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は当初から予定されていた平成29年度分の助成金と合わせて物品の購入等に充て、研究遂行のために使用する。
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Research Products
(4 results)