2017 Fiscal Year Research-status Report
極東ロシアとの比較による,北海道指定希少植物の固有性,集団分化の検証と保全提言
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16K18596
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
中村 剛 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 助教 (70532927)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 極東ロシア / 中国東北部 / 韓国 / 北海道 / 国際共同研究 / 絶滅危惧種 / 固有種 / 保全遺伝 |
Outline of Annual Research Achievements |
ロシア・プリモルスキー,中国,北海道・本州以南の各地で「北海道指定希少野生植物」と関連種の調査・採集を行った.これらサンプルを用いて,以下の結果を得た.・エンビセンノウ:日露韓中の集団遺伝解析から,種内最大の遺伝的分化が北海道-長野間にあり,これは本種が南北2ルートで日本に進入したことを背景とすることがわかった.この結果から,本種の保全においては北海道と長野の集団を進化的重要単位として区別するのが適当である.その他,北海道内の地理的遺伝構造の解明,工事で消失した集団の域外保全株の植え戻し計画の策定,環境省が保有する由来不明の生息域外保全株の由来解明を行った.これらの結果は複数の論文として査読中・取りまとめ中である.・ユウバリクモマグサ:属の分子系統解析と染色体数の算定から,本種は従来考えられていたシコタンソウとエゾノクモマグサの雑種ではないこと,また,MIG-seq法によるSNP解析から同種説があるシコタンソウとも区別され,古い遺存固有種であり,保全価値が高いことが明らかになった.本結果をまとめた論文は査読中である.・ヤチカンバ:染色体数の算定から倍数性の違い(日本-2倍体,ロシア-4倍体)を根拠に北海道産を固有種とする見解が支持されないことを示した.また,遺伝マーカーにより,明渠にダケカンバとの交雑個体が生育し,遺伝的汚染防止のため除去が望ましいことを示した.これらの結果は論文に取りまとめ中である.・ユウバリソウ・ホソバウルップソウ:属の分子系統解析に加え,近縁種のMIG-seq法によるSNP解析を行い,これら2種が,同種とする見解があるウルップソウとは明瞭に区別され,北海道に遺存固有の系統であることがわかった.・予定のサハリン調査は採集許可申請の進捗に合わせ3年目に変更し,これに代わり,ロシア側より提案のあった,ロシアの絶滅危惧種で北海道と共通する種の保全研究を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究成果の社会発信:日本生態学会(2018年3月)でシンポジウム『国際協力で推進する,北海道・北東アジアの植物多様性の成立過程解明と希少種保全』を開催し,エンビセンノウ,ユウバリクモマグサ,ヤチカンバ,ユウバリソウの結果について発表した.エンビセンノウの詳細な結果については日本植物学会(2017年9月)で口頭発表および日本生態学会(2018年3月)でポスター発表(保全部門の最優秀発表賞を獲得)した.ユウバリクモマグサの結果詳細については日本植物分類学会(2018年3月)で口頭発表した.エンビセンノウの保全活動の社会発信に関する論文が印刷中である.エンビセンノウの生息域外保全に関する論文,および,ユウバリクモマグサの系統分類に関する論文は,現在査読中である. 国際協力の推進:サハリン植物園と学術協定書を締結した.上記の学会・論文発表は以下の海外機関との連名による:ウラジオストク植物園,大シホテアリニ野生保護区,シホテアリニ州自然生物圏保護区,カムチャッカ火山地震研究所(以上,ロシア),国立生物資源館(韓国),中国科学院上海辰山植物園,吉林省長白山保護処(中国).とくに,上述のシンポジウムには韓国国立生物資源館Park Chan-Ho博士(招聘費は学会から助成)を招聘した. 行政との連携:北海道庁と連携し,近年消失したエンビセンノウの集団について,自生地由来株の遺伝解析の結果を踏まえた植え戻し計画を策定した.環境省(新宿御苑)で増殖が行われているエンビセンノウは,由来する自生地情報を欠いていたが,種の分布域を網羅した集団遺伝構造の解析によりその由来を明らかにすることができ,生息域外保全株としての価値を向上させることができた.その他,エンビセンノウ,ユウバリクモマグサ,ユウバリソウ,ヤチカンバの研究結果に基づく保全策について,環境省,北海道庁,別海町に提言を行った.
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Strategy for Future Research Activity |
サハリン植物園との協定締結をうけて,サハリン州の採集許可が得られる見通しである.これを受けて,礼文島固有の北海道指定希少野生植物(フタナミソウ,レブンソウ)について分類学的実態および種の正確な遺伝構造を明らかにするため,サハリンおよびその属島のモネロン島で同種の可能性がある近縁種の調査・採集を行う. ウルップソウの国内集団は北海道礼文島と中部山岳に隔離分布している.これら2地域への進入過程や,地域間の遺伝的分化の有無,遺伝子流動の頻度などについて明らかにするためには,サンプル,データが十分でない.これに対応するため,礼文島および中部山岳で調査・採集を行う.MIG-seq法によるSNP解析を行い,保全策策定に資する結果を出す. ロシア側より提案のあった「ロシアの絶滅危惧種で北海道と共通する種の保全研究」として,エゾムラサキツツジとその近縁種群について分類学的再検討,地理的遺伝構造の解明とこれに基づく保全価値の判断を行う.また,その関連種の調査を中国吉林省・黒竜江省で行う予定である. エンビセンノウについて,北海道の詳細な地理的遺伝構造が明らかになり保全上重要な示唆が得られたが,日本の残るもう一つの分布域である長野県については詳細な地理的遺伝構造が不明である.長野県下の野外調査・採集と開発済みのマイクロサテライトマーカーによる集団遺伝解析を行い,この解明に取り組む.
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Causes of Carryover |
次世代シーケンス実験の効率化のため,今年度処理予定であったサンプルの一部を次年度他のサンプルと一緒に処理することとしたため,次年度使用額が生じた.これは当初通りの目的に次年度使用する.当該変更が課題全体に遅れを生じることはない.
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[Presentation] 絶滅危惧種エンビセンノウのロシアから北海道,朝鮮から本州の2ルート進入と,日本集団保全上の留意点2017
Author(s)
田村紗彩, Kwak Myoung-Hai, 國府方吾郎, Park Chan-Ho, Lee Byoung-Yoon, 福田知子, Elena Alexandrovna Pimenova, Petrunenko Ekaterina, Krestov Pavel, Bondarchuk Svetlana, Ma Jin-Shuang, Zhou Hai-Cheng, 坪井勇人, 西川洋子, 島村崇志, 冨士田裕子, 中村剛
Organizer
日本植物学会第81回大会