2017 Fiscal Year Research-status Report
外生菌根菌オニイグチ属の地理的分布パターンの解明~共生樹種に着目して~
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16K18603
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
佐藤 博俊 京都大学, 人間・環境学研究科, 助教 (10635494)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 共生 / 生物地理 / 菌類 / 菌根 / 宿主 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、ブナ科・マツ科・カバノキ科・フタバガキ科などの樹木と互いに不足する栄養分を補い合う、相利共生関係を結んでいることで知られる外生菌根菌を研究対象としている。本研究では、外生菌根菌の中でもイグチ科のオニイグチ属菌を研究材料とし、形態が互いに類似しているために識別の難しい種(隠蔽種)を識別した上で、モデリングによって、個々の種のもつ地理的分布パターンを解明することを目的としている。これまで世界中から収集したオニイグチ属菌の子実体標本から、複数の核シングルコピー遺伝子のDNA塩基配列を解読した結果、この属には少なくとも26の種が存在していることが分かってきた。オニイグチ属菌の分布パターンは3つに大別され、日本を始めとする東アジアの温帯地域には14種、マレーシアなどの東南アジアの低地熱帯林では6種、そして、オーストラリアなどのオセアニアの温帯・亜熱帯地域には6種のオニイグチ属菌が分布していた。これら2種に加え、アフリカの温帯・熱帯域には、オニイグチ属の姉妹群であるアフロボレトゥス属の種が2種確認された。オニイグチ属菌とアフロボレトゥス属菌は、いずれの種も分布する地域が決まっており、広域に分布する種は確認されなかった。これらの菌類は風による胞子散布を行う種群なので、何らかの要因によって分散が制限されていると考えられる。その要因として考えられるのは、より分散能力の低い共生樹種の分布に菌の分散が制限されているということである。今後、分布モデリングを行うことによって、この可能性について検証していく必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
オニイグチ属菌とその姉妹群であるアフロボレトゥス属菌は、風による胞子散布を行っており、高い分散能力があると考えられる。それにもかかわらず、個々の菌種には必ずしも広域分布を取らないことから、その分布範囲は何らかの要因(おそらくは宿主樹種の分布)によって強く制限されていると考えられる。本研究では、ここまでの知見が得られたことから、一定の進展があったと考えられる。一方で、菌類のサンプルはまだ増やせる余地が残っており、遺伝子解析に関しては解析が完了していないものもあるため、今後、少しでもサンプル数を増やし、解析を進めていく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
外生菌根菌オニイグチ属菌の個々の種に分布範囲の制限があることが分かった。私は、より分散能力の低い宿主樹種の分布がこの菌の分布範囲の制限の主たる要因なのではないかと考えている。この仮説について検証するためには、今後、詳細な分布モデリングを行っていくことが必要である。また、分布モデリングの精度を向上させるためには、サンプル数を少しでも増やしていくことが重要である。今後、少しでも多くの菌のサンプルを収集し、同時に収集済みのサンプルの遺伝子解析を進めていく必要がある。
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