2016 Fiscal Year Research-status Report
カマアシムシ目の分子発生学への挑戦~神経発生の解明から探る昆虫の祖先型と進化~
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16K18605
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
福井 眞生子 愛媛大学, 理工学研究科(理学系), 助教 (90635872)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 比較発生学 / 六脚類 / 昆虫類 / 脳構造 / 系統進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
動物界最大のグループである昆虫類の最原始系統群カマアシムシ目は、昆虫進化解明の鍵となる系統群でありながら、研究が極めて困難であり、未だ多くの謎に包まれる。本研究は、詳細な形態学的裏付けのもと、触角体節の有無、大顎類でも稀な”触角の喪失“のメカニズムを推定するとともに、昆虫の脳の祖先型の解明から、昆虫の初期進化を明らかとすることを目的とする。 初年度である本年度は、カマアシムシ目への分子発生学的手法導入のための準備および胚発生後期の組織学的検討をメインテーマに据えた。しかし、採集地の環境変化による材料の不足および組織学的観察に生じた著しいアーティファクトにより、本年度は研究を十分に発展させることができなかった。 一方で新たな採集地の探索による材料の確保、後期胚固定法の改良により、組織学的検討における諸問題の解決を行い、次年度の研究に備えた。また、本年度得られた成果の一部に関し、学会発表を行った。 また、高輝度研究センターSPring-8ビームラインにおけるカマアシムシ目の頭部の微細構造の解析を行い、現在解析中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
材料の不足から特に分子発生学的手法の導入が著しく遅れている。今まで材料としてきたサイコクカマアシムシBaculentulus densus (Imadate) の主な採集地である長野県のアカマツ・コナラ混交林において、著しい松枯れの進行とコナラの伐採が行われたことによりリタ―層の状況が悪化し、採集個体が通常の三分の一程度に激減してしまった。また、このことにより、採卵数も数十程度と目標を大きく下回ることとなり、クローンニングに十分な量の試料を得ることができなかった。 また、形態学的検討において最重要である発生後期の組織学的検討においては、特にクチクラ形成が開始するステージの固定における浸透圧のコントロールが非常に困難であり、作成した切片の多くに深刻なアーティファクトがみられた。この問題に関しては試行を重ねることにより、新たな固定法を開発し、克服するに至っている。
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Strategy for Future Research Activity |
採集地の状況悪化による採卵数の減少に関しては、新たな採集地の確保が急務である。各地で探索を進めた結果、長野県内および愛媛県内で好適な採集地を発見するに至り、すでに採集・飼育を開始している。計画通り、常時 2,000 匹の飼育と、毎年 500 卵の採卵を目指し、分子発生学的手法の導入への足掛かりとする。 形態学的検討においては、固定液の濃度や穿孔法を新たに開発し、予備的な研究において良好な結果を得ている。新固定法により新たに得られた試料を処理することにより、準薄および超薄切片法による観察や三次元再構築を推進していく。
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Causes of Carryover |
平成28年度に支出を計画していた経費の大半は実体蛍光顕微鏡M165FCの計上によるものであるが、申請時と比較して研究費が大幅に減額されたことにより、本科研費のみによる機器購入がは困難となった。本研究課題において実体蛍光顕微鏡は欠かすことができないため、やむを得ず、分担分の課題番号16H04825[基盤B・昆虫類頭部内骨格の比較発生学的検討―昆虫基部分岐の系統学的再構築―]との科研合算により購入することとなった。また、28年度は研究試料の不足により、分子発生学的研究に用いる予定であった試薬類購入のための物品費および謝金等が発生していない。そのため、本科研費に次年度使用額が生じることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
29 年度には、28年度に計画していた分子発生学的手法の開発を進めるため、物品費および謝金が発生する。試料の確保により、形態学的検討においても29年度には28年度以上の物品費計上が予定されている。 また、これまでに超薄切片用のウルトラミクロトームに不調が生じていることが明らかとなっており、このことは今後の研究の遂行に影響を及ぼす可能性がある。そのため、29年度においてはミクロトームのメンテナンスおよび免振台の設置を計画しており、そのための予算が計上される予定である。
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