2016 Fiscal Year Research-status Report
魚類個体群の遺伝的多様性を網羅的に分析する新手法の確立と現場応用への展開
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16K18610
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
山中 裕樹 龍谷大学, 理工学部, 講師 (60455227)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 環境DNA / 種内多様性 / 広域調査 / 次世代シーケンサー |
Outline of Annual Research Achievements |
個体群内の遺伝的多様性は、感染症等の攪乱への耐性など、個体群の存続可能性に大きく影響する。希少種保全や産業上有用な種の資源管理には不可欠の情報であるが、生息密度が低い種や活動性が極めて高い種などは1個体ずつ捕獲して遺伝情報を取得するのに相当な労力が必要で、また、捕獲行為が対象種の生息環境を人為的に攪乱してしまう恐れもある。そこで本研究では、水中を漂う環境DNAを分析することによって、対象個体群が持つ遺伝的多様性を、個体を捕獲することなく解析する新手法を確立する。現在の技術では種を識別するだけに留まっている環境DNA分析をさらに進化させ、捕獲では収集困難な多数の個体由来のDNAを網羅的に分析して、個体群の保全に有用な遺伝的多様性の情報を簡便かつ大量に取得する技術を開発する。 全国の陸水面で有用魚種にあげられるアユを対象とし、各個体のD-loop領域の塩基配列を環境DNA試料から分析可能かを試行した。増幅の対象とする領域はアユのD-loopの塩基配列に基づいたハプロタイプについての先行研究を参考にしながら決定し、環境DNA中からアユの対象領域(約200bp)のみをPCRで増幅できるプライマーセットを開発した。まず水槽で1個体ずつを飼育し、各水槽水から得られた環境DNA試料から得た対象領域の塩基配列と、飼育個体の肉片由来のDNA試料から得た対象領域の塩基配列を決定し、両者が完全に一致することを確認した。また、滋賀県の河川水から得た環境DNA試料から同じ対象領域を増幅できることも確認でき、「種より細かな解像度」を持つD-loopの塩基配列に基づいた遺伝的多様性の分析が、環境DNAを対象に実施できることを実証した。現在、次世代シーケンサーによってアユの個体群内のハプロタイプを網羅的に解析できる分析・解析手法の精緻化を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、水試料から回収可能な環境DNA試料を用いて、個体ごとの解析では取得が困難な多数の個体由来のDNAを取得し、個体群内の遺伝的多様性を明らかにする新規の手法を確立することである。また、この手法の応用実例として複数の希少淡水魚類を対象として広域調査を実施する。まず初年度の課題として、水槽で1個体ずつを飼育し、各水槽水から得られた環境DNA試料から得た対象領域の塩基配列と、飼育個体の肉片由来のDNA試料から得た対象領域の塩基配列を決定し、両者が完全に一致することを確認した。これによって、種内の遺伝的多型も環境DNA分析により解析できることが示せた。次に、アユを対象として次世代シーケンサーによる解析の安定的な実施体制と、膨大な出力データの妥当な解析(エラーシーケンスのクリーニング)手法の確立を行った。 次世代シーケンサーによる分析手法の確立を目指して、アユのD-loop領域をターゲットとした次世代シーケンスに利用できるプライマーセットを設計した。ただ、次世代シーケンサーでは類似した塩基配列の試料をシーケンスするときにエラーを含んだデータが生成されるため、膨大に出てくるデータの中から効率的にPCRエラーやシーケンスエラーによる誤読を排除する実験ステップとデータクリーニングの手法を模索する必行があった。実験ステップについては複数のPCR反復を設定することでランダムに生成されるエラーと、どの反復からも得られる真に存在する塩基配列とを区別しやすくする工夫を行った。また、研究協力者によってクリーニング手法の解析的な手法もおおよそのめどが立った。 これまでの成果をまとめ、環境DNAから非侵襲的に魚類の遺伝的多様性を分析する技術を報じる論文を現在執筆中である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はアユを対象として、琵琶湖周辺等、ハプロタイプの分布について既存の知見がある水域で本分析手法の評価を行う。これと同時に、カワバタモロコやオオサンショウウオ等の希少淡水生物を対象として他種へ技術の展開を図り、滋賀県、京都府、兵庫県などの生息域で遺伝的多様性の広域調査を進める予定である。 アユのハプロタイプ情報について既存の知見がある琵琶湖周辺の調査地から得た環境DNA試料の分析を行い、本手法での分析結果と照らし合わせて検出能力の比較を行う。また、滋賀県、京都府、兵庫県、などでのアユおよび上述の希少種の広域調査を行えばこれまでに知られていなかったハプロタイプが検出される可能性が高く、これまでにない広域かつ詳細な種内多様性の空間分布情報が得られると考えられる。ハビタットの特徴や空間配置等各種条件との関係解析などにも展開していくつもりである。 種の検出を目的とした環境DNA分析は生物モニタリングの現場で既に実用化プロセスに入っている。これに加えて本研究で提案する「環境DNA からの遺伝的多様性の分析技術」が実用化できれば、希少種保全や水産資源管理に計り知れない恩恵がある。例えばイタセンパラなど、生息域外保全が行われているようなレッドリスト種については、野生個体群の遺伝的な構成を網羅的に知ることで、追加放流予定の飼育個体群とのマッチングの確認等に即座に寄与できる。こうした保全生物学的なテーマについて、本技術を適用できる機会を常に求め、適宜共同研究として更に実用的応用を進めていく。
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Causes of Carryover |
当初見込んでいたよりも相当に順調に研究が進行したため、試行錯誤によって消耗する想定をしていた実験消耗品が少なく済んだこと、また、所属機関独自の補助が得られたため、消耗品費が更に大きな額で削減されたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
順調に進んでいるため、広域調査を積極的に実施すること、また、本研究で初年度に確立した技術を求めている保全生物学的な活動を行っている研究者との共同研究を積極的に進めることに予算を活用したい。また、対外的な研究発表も資金的な余裕が生じたためにより積極的に行いたい。
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Research Products
(4 results)