2017 Fiscal Year Research-status Report
性スイッチ遺伝子発現量と社会的地位への応答進化の統合:魚類性転換機構の解明
Project/Area Number |
16K18624
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
山口 幸 神奈川大学, 工学部, 助教 (20709191)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ホルモンダイナミックス / アロマターゼ / 性転換 / 温度性決定 / 遺伝子発現 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、魚類の性転換現象そして魚類や爬虫類で多く見られる温度性決定現象に焦点をあて、生物の表現型適応の進化機構を、遺伝子発現・生理的機構に着目しモデル化する。生理学・分子生物学と生態学・行動学をつなぐ新しいアプローチを確立することが目的である。以下の2つのことを明らかにした。 [1]なぜ双方向性転換が稀なのか? 社会的状況に応じて双方向に性をかえる種もあるが、一方向の性転換をする種がほとんどである。性表現を制御するホルモンのダイナミックスをモデル化することで、この問いに答える。結果、(1)個体がより優位になるにつれ、雌性ホルモンは増加するが、あるところでその量は急激に減少する。このときに雌性先熟的性転換が起こる。(2)一方、個体の地位がより劣位になるにつれ、雌性ホルモンはあるところで、急激に増加する。このとき雄性先熟的性転換が起こる。(3)雌と雄の表現型がともに安定な領域(双安定)があることがわかった。双安定領域の幅がある程度存在することが、双方向性転換が起きにくい原因となっていることが示唆された。 [2]温度性決定の生理的機構のモデル化 雌雄を決定するホルモンのダイナミックスを考え、そこに関与する酵素の反応速度が温度に依存する場合に、どのような温度性決定パターンが見られるかをモデル化した。全ての酵素反応の速度が同じ温度依存性を持つと、平衡状態のホルモン量は変化せず、温度依存性決定は生じない。複数の反応で温度依存性があり、その反応速度がArrhenius式に従うときは、FMF型(低温と高温でともに雌になり中間温度で雄になる)が出現しない。温度性決定を示す爬虫類の多くで見られるFMF型を出すには、高温での温度依存性をさらに高める何らかの機構、例えば選択的スプライシング、翻訳後修飾、多量体形成などが温度依存的に生じることが必要と推測される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要「[2]温度性決定の生理的機構のモデル化」は平成29年度の当初の研究計画では予定していなかった研究で、[1]のモデルを応用して展開した。温度性決定の祖先型と推定されているFMF型は、化学反応理論から導かれる速度反応式(Arrhenius式)の適用では説明できず、高温での温度依存性をさらに高める何らかの機構が必要であることを提唱した新たな研究である。 実績の概要[1]および[2]の研究はJournal of Theoretical Biologyに平成30年5月に受理された。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、これまでの数理モデル(性表現に関わるホルモン・酵素のダイナミックス)を応用して、ミジンコやメダカ、両生類の環境性決定のメカニズムについて、明らかにしていく予定である。
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Causes of Carryover |
(理由)当該年度予定していた海外出張等を行わなかったため。また平成29年度は、数理的研究が大きく進展し、使用額が抑えられたため。 (使用計画)国際会議参加等に充てる。
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Research Products
(4 results)