2018 Fiscal Year Research-status Report
性スイッチ遺伝子発現量と社会的地位への応答進化の統合:魚類性転換機構の解明
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16K18624
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
山口 幸 奈良女子大学, 大和・紀伊半島学研究所, 協力研究員 (20709191)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 性システム / 雌雄同体 / 自家受精 / 性転換 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、魚類の性転換現象といった「性」に関する話題に焦点をあて、生物の表現型適応の進化機構を、遺伝子発現・生理的機構に着目しモデル化する。生理学・分子生物学と生態学・行動学をつなぐ新しいアプローチを確立することが目的である。今年度は「適応性」に焦点をあて、以下の2つのことを明らかにした。 [1] 基本的に自家受精する雌雄同体と雄との共存条件 カブトエビは、初夏に水田で大量発生する節足動物である。日本のカブトエビは、同時的雌雄同体のみで自家受精をおこなう。一方ヨーロッパで見られるカブトエビは、雌雄同体だけでなく雄が見られ、雄は雌雄同体と配偶する。カブトエビの性システムを決める条件を数理モデルで明らかにした。解析によると、自家受精による卵の近交弱勢が強く、かつ雌雄同体が他家受精をするために雄に出会う頻度が高くなれば、他家受精する雌雄同体と雄の共存(ヨーロッパ型カブトエビ)が局所的に安定になる。一方で、雄が存在しない集団では他家受精できないため、他家受精を希望する雌雄同体は、最初から自家受精だけをする雌雄同体よりも不利になる。その結果、最初から自家受精をする雌雄同体のみの集団(日本型カブトエビ)は必ず進化的に安定であることがわかった。 [2] 社会性昆虫アリにおける齢に応じた仕事分業がなぜ起こるのか 一般的に、若齢個体は卵や幼虫の世話など巣内での仕事を担当し、老齢個体では巣の外で餌集めや見張りなどの仕事に従事する。餌集めといった外勤の仕事は危険がたくさんあり、内勤アリよりも死亡率が高いとされる。齢に応じた仕事分業を説明するための動的最適化モデルを作成した。このモデルの解析はこれからである。アリの齢による仕事の違いも、サンゴ礁魚類で見られる性転換現象を説明した「死亡コストモデル」と同じ定式化で解ける見込みである。両モデルの比較検討もおこなう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
身内の不幸と介護があったため、研究時間が確保できず研究計画が遅れている。今年度は、遺伝子発現・生理的機構に着目した新しいモデルを展開できず、これまで研究代表者がおこなってきた適応性に関するモデルを作成・解析するだけにとどまった。
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Strategy for Future Research Activity |
[1] 遺伝子発現・生理的機構に着目したモデリングとして、性表現は雌雄同体のみで、自家受精をする魚であるマングローブキリフィッシュに注目する。この魚では、雌雄同体の一部が雄に性転換することがわかっている。基本的な繁殖は自家受精によるので、ほとんどすべての個体は遺伝的にクローンである。この状態で性転換が起こるときに、体内での遺伝子発現量およびホルモン量に着目してそのダイナミックスを微分方程式で記述し、雌雄同体と雄での性ホルモン量の違いをもたらす要因を明らかにする。
[2] 研究実績の概要で述べた、[2] 社会性昆虫アリにおける齢に応じた仕事分業がなぜ起こるのかについてのモデルの解析をおこない、魚類の性転換モデルとの比較をおこなう。
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Causes of Carryover |
今年度は、身内の不幸と介護のため、研究時間が確保できず、次年度使用額が多くなった。次年度は研究打ち合わせ出張を国内外で予定ししている(兵庫県 関西学院大、アメリカ)。また、数理モデル解析にあたって、数値計算用のMathematica、デスクトップコンピュータの購入を予定している。研究成果を国際誌に投稿するため、論文校閲費の支出がある。
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Research Products
(7 results)