2016 Fiscal Year Research-status Report
イネ光合成改良に向けた光合成窒素利用効率のイネ科変異の解明
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16K18643
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
安達 俊輔 東京農工大学, グローバルイノベーション研究院, 特任助教 (30717103)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 光合成 / 葉身窒素含量 / 気孔伝導度 / 葉肉伝導度 / 光呼吸 |
Outline of Annual Research Achievements |
過去半世紀のイネ収量の大幅な増加は、大きな収穫指数を有する品種の育成に加え、窒素を主とする施肥量の飛躍的増大によって達成されてきた。しかし窒素肥料の過剰施用は環境への負荷を高めるとともにエネルギー消費を高め、多大な経済損失をもたらす。求められる作物生産性の向上と農業の持続可能性を両立させていくには、これまでのような窒素多施用ではなく、作物の窒素利用効率の向上が重要と考えられる。本研究は葉の窒素含量当たり光合成速度(光合成窒素利用効率)に着目し、1. 複数のイネ科植物の光合成窒素利用効率の自然変異の解明、2. この自然変異をもたらす生理要因の解明、3. イネの光合成窒素利用効率の向上につながる新たな視点の獲得、を目的として実施する。 これまでの研究成果は以下のように要約される。1. C3、C4を含む複数のイネ科植物に幅広い光合成窒素利用効率の変異があることを示した。C4植物の光合成窒素利用効率はC3植物に比較して高かった一方、C3植物種間にも光合成窒素利用効率の変異が認められ、イネの光合成窒素利用効率はC3植物の中では高い部類にあることが示された。2. イネは他のC3植物に比較して、気孔伝導度、葉肉伝導度が葉身窒素含量にかかわらず高かった。一方炭酸固定効率や光呼吸の指標であるC* (呼吸速度を除いたときのCO2補償点) の品種間差異は小さかった。以上のことから、イネの高い光合成窒素利用効率については、主に大気から葉内部へのCO2拡散能力が高いことが関与していることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は複数のイネ科植物(C3植物:イネ、ダンチク、クサヨシ、C4植物:トウモロコシ,ヒエ、ミスカンサス)を用いて光合成窒素利用効率とこれに関わる要因の比較を行った。 1) C3、C4を含む複数のイネ科植物に幅広い光合成窒素利用効率の変異があることを示した。C4植物の光合成窒素利用効率はC3植物に比較して高い傾向が認められた。C4植物間にも光合成窒素利用効率の種間差が認められ、トウモロコシが最も高く、次いでヒエ、ミスカンサスの順となった。C3植物種間にも光合成窒素利用効率の変異が認められ、イネ(cv.タカナリ)の値が最も高く、次いでダンチク、クサヨシの順となった。またイネの光合成窒素利用効率はC4植物のミスカンサスと遜色なかった。このようにイネの光合成窒素利用効率はC3植物の中では高い部類に属することが明らかとなった。 2) 葉のCO2吸収に関わる気孔伝導度および葉肉伝導度、葉の内部活性を示す炭酸固定活性、そして光呼吸活性に着目してその要因を解析した。イネは他のC3植物に比較して、気孔伝導度、葉肉伝導度が葉身窒素含量にかかわらず高かった。一方炭酸固定効率については、イネはクサヨシに比較して高かったが、ダンチクとほぼ等しかった。また葉の光呼吸の指標であるC* (呼吸速度を除いたときのCO2補償点) は、葉身窒素含量の増加に伴っていずれの植物種でもC*が低下する傾向があったが、種間差は認められなかった。以上のことから、イネの高い光合成窒素利用効率については、主に大気から葉内部へのCO2拡散能力が高いことが関与していることが示された。 以上のように当初計画に記載した多様な植物の光合成窒素利用効率の比較とその生理解析について順調に進んだ。
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Strategy for Future Research Activity |
上記試験でC3植物とC4植物の光合成窒素利用効率に大きな差異を検出することができた。C3植物間にも光合成窒素利用効率の差異があることは認められたが、3種のみの比較ではイネの特徴を表す上で不十分と考えられた。そこで平成29年度は対象植物をC3植物に限定し、より多くの種の光合成窒素利用効率を比較する。これによって、イネの光合成窒素利用効率の特徴をより明確化することができるものと考えられる。現在8程度の植物種を選定している。 これらの植物種の葉身窒素含量、気孔伝導度、葉肉伝導度、光呼吸活性を調査してその種間差の要因を整理するとともに、重回帰分析によってその種間差への寄与率を明示する。加えて葉の葉肉細胞の形態的特徴を電子顕微鏡観察を通じて解析し、光合成速度との関わりを考察する。これによってイネの光合成窒素利用効率の特徴が明確化し、それをさらに向上するためのターゲット形質を抽出できるものと期待される。
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