2016 Fiscal Year Research-status Report
化合物アレイを用いた拮抗作用を示さない植物ホルモン受容体結合化合物の探索
Project/Area Number |
16K18662
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
由田 和津子 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, 特別研究員 (50536480)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 植物ホルモン / ケミカルバイオロジー / バイオプローブ |
Outline of Annual Research Achievements |
植物は乾燥、温度変化、菌感染、傷害など周りの環境からのストレスに応じて種々の植物ホルモンを合成し、ストレス応答を発現する。植物ホルモンはそれぞれの受容体と相互作用することによりタンパク質間相互作用を制御し、下流のシグナル伝達を開始させる。植物ホルモン受容体には複数のホモログが存在し、各々の機能分化について未だ不明瞭な点が多い。また植物ホルモンのシグナルは互いにクロストークしているが、その詳細は明らかになっていない。そこで、ケミカルバイオロジーの手法を用いて植物ホルモン受容体に結合する化合物をバイオプローブとして受容体機能の解明を目指している。 当研究グループではケミカルアレイを用いた化合物スクリーニングにより、アブシジン酸(ABA)受容体のアンタゴニストRK460を単離した(Ito et al ., 2015)。今回新たにRK460の立体異性体を合成し、複数存在するABA受容体への選択性を試験したところ、一部の立体異性体のみに活性があり、また選択性が異なることがわかった。このような選択性のある植物ホルモンアンタゴニストは、植物ホルモンシグナル伝達系の解析のための有用なツールとなると考え、RK460とその異性体についてさらに解析を進めている。 またABAとの拮抗作用が報告されているサリチル酸(SA)、ジャスモン酸(JA)のシグナル伝達とのクロストークに関しての知見を得るために、SA、JAそれぞれによって発現が誘導される遺伝子プロモーター領域をレポーター遺伝子に連結したコンストラクトを作製し、シロイヌナズナへの形質転換を行った。またSA、JA受容体に関して、シロイヌナズナより各受容体遺伝子を大腸菌タンパク質発現系ベクターにクローニングした。これらの異種発現・精製を試みたところ、一部の受容体で組換えタンパク質の誘導が見られなかったため、別の発現ベクターへの導入を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ABA受容体を用いたケミカルアレイスクリーニングより単離されたRK460の立体構造と活性、受容体選択性の相関に関する知見が得られたことから、ABA受容体機能の解明および植物ホルモンシグナル伝達へのアプローチにRK460が有用なツールとなることが期待された。RK460異性体の合成、光学分割、また9種類のABA受容体組換えタンパク質の精製に成功したため、生化学実験をスムーズに行うことができた。これを受け、RK460を基盤とした研究も進めていくこととした。 植物ホルモンシグナル伝達活性化を評価するための形質転換植物体の準備も順調に進行している。植物ホルモン受容体関連タンパク質の中には精製に成功していないものがあり、組換えタンパク質の精製方法の検討が課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
RK460とその異性体に関して新しい知見が得られ、受容体機能解明の有用なツールとなることが期待されたため、当初の計画を変更してこれらの生化学的、生理学的解析を行う。植物を用いた生理実験では、遺伝子発現や気孔の閉鎖に対する影響を検討し、さらに他の植物ホルモンシグナル伝達に及ぼす影響も調査する予定である。またこの化合物の構造展開を行い、SAR研究も継続する。 またサリチル酸、ジャスモン酸シグナル伝達活性化を評価するための形質転換体の作製を継続し、受容体タンパク質精製が困難であったものに関しては、精製方法、組み換えタンパク質のタグの検討を行い、改善を図る。
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Causes of Carryover |
今年度行った受容体遺伝子群のクローニングには、当初Gatewayシステムを利用する予定であったが、in-fusion法の方がベクターの多様性があるためほとんどの実験を後者の方法で行い、当初の予定と比較して安価に実施することができた。また、ケミカルアレイ実験を予定していたが、組換えタンパク質が得られなかったものがあり保留となった。これら2つの理由により、次年度への繰越金が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の費用は予定通り、分子生物学実験(遺伝子クローニングや組換えタンパク質精製関連試薬・キット類)、生化学試験の試薬・キット類の消耗品費、論文投稿費用、英文校閲費用、学会参加費用に使用する。 また繰越し分は、分子生物学実験の一部、アレイ実験及び学会参加費用の一部にも充てる予定である。
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