2016 Fiscal Year Research-status Report
清酒酵母において見出されたTORシグナルを介した高発酵メカニズムの解明とその応用
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16K18676
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
渡辺 大輔 奈良先端科学技術大学院大学, バイオサイエンス研究科, 助教 (30527148)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | TORシグナル / TORC1 / アルコール発酵 / 清酒酵母 / Rim15p / アミノ酸合成 / アミノ酸取込み / タンパク質合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
TORシグナルが、出芽酵母におけるアルコール発酵調節の鍵因子であることを明らかにするために、発酵過程におけるTORC1活性の解析を行った。TORC1の主要な標的タンパク質の一つであるSch9pプロテインキナーゼのリン酸化を調べた結果、旺盛な発酵を示す発酵初期においてTORC1活性が最も高いことが明らかになった。また、実験室酵母との比較により、高発酵性を示す清酒酵母において、発酵初期のTORC1活性が顕著に高いことも見出した。以上の結果から、TORシグナルと発酵性の間に関連があり、清酒酵母ではTORC1活性の強化によって高い発酵性を獲得した可能性が示唆された。 次に、TORシグナルが発酵に及ぼす影響をより直接的に調べるために、発酵速度の解析を実施した。その結果、①TORC1阻害剤であるラパマイシンによる処理や②TORC1に特異的な構成因子であるTco89pの欠損、③TORC1の上流活性化因子として知られるGtr1/2pの欠損はいずれも発酵速度を低下させたのに対し、TORC1の活性型変異(TOR1(L2134M))は発酵速度の最大値を有意に上昇させた。また、TORC1の下流因子の解析では、清酒酵母において機能が欠損しているRim15pプロテインキナーゼに加えて、アミノ酸の生合成を司る転写因子Gcn4p、アミノ酸の取込みを司る転写因子Gln3pおよびGat1pとNpr1pプロテインキナーゼが発酵の「ブレーキ」として働くのに対し、リボソームの生合成・タンパク質合成を正に制御する転写因子Sfp1pが発酵の「アクセル」として働くことを見出した。TORC1は、Rim15p、Gcn4p、Gln3p、Gat1p、Npr1pを阻害し、Sfp1pを活性化することが報告されており、「ブレーキ」の抑制と「アクセル」の促進を同時に遂行する発酵調節のマスターレギュレーターとして機能すると結論づけた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、TORシグナルを介したアルコール発酵調節に関与する因子とその重要性を明らかにすることができた。本研究に着手する以前は、清酒酵母の研究を通してRim15pのみが主要な発酵の「ブレーキ」として同定されていたが、本年度はRim15pの上流阻害因子であるTORC1に加え、Rim15p以外の多数のTORC1下流因子が既知の機能(アミノ酸合成、アミノ酸取込み、タンパク質合成)とは異なる発酵調節に関わることを解明した点は特筆に値する。さらに、清酒酵母において新たに見出したTORC1の高活性は、清酒酵母の高発酵性を生み出した根源的な原因であると考えられる。したがって、本成果は長年にわたる醸造学上の謎(清酒酵母はなぜ発酵能が高いのか?)の解明に大きく貢献することが期待され、応用微生物学の観点からも重要な知見が得られたのではないかと考えられる。これまでの成果を国内学会等において発表したことに加え、特にRim15pを介した発酵調節メカニズムについて、原著論文1報、総説3報を執筆した。
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Strategy for Future Research Activity |
アルコール発酵調節メカニズムについては、本年度見出したTORC1関連の新規発酵調節因子による代謝への影響を明らかにする。特に、Rim15pの欠損がUDP-グルコースおよびこれを基質とする貯蔵性・構造性糖質の合成を抑制することで炭素代謝に直接的に作用し発酵を促進するのに対し、TORC1および新たに見出された因子はアミノ酸の合成、取込み、消費(タンパク質合成)に関連しており、細胞内のアミノ酸プールが発酵調節に関与するという新規な可能性が考えられる。このことから、今後は、細胞内代謝産物の解析を通して、炭素-窒素代謝のクロストーク調節を想定しながら解析を進めていく。 また、清酒酵母において、発酵の「ブレーキ」であるRim15pプロテインキナーゼ上の機能欠失変異(rim15(5055insA))が高発酵性の一因であることを、申請者らは以前に明らかにしている(Watanabe et al., Appl. Environ. Microbiol. (2016))。本年度の研究によって、Rim15p以外の複数の「ブレーキ」が見出されたことから、これらの「ブレーキ」をコードする遺伝子上に清酒酵母特異的な機能欠失変異が存在する可能性を想定し、解析を行う。中でも、GAT1遺伝子上にはすでに清酒酵母特異的な変異(gat1(72insTA))を発見している。本年度は主に各発酵調節因子の個別の役割について解析を行ったが、今後は発酵調節因子間の相互作用を調べることで、出芽酵母・清酒酵母における発酵調節の全体像解明に迫りたい。
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Research Products
(15 results)
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[Presentation] 清酒酵母におけるTORC1シグナリングとアルコール発酵の関連に関する研究2016
Author(s)
渡辺 大輔, 周 延, 陳 佳文, 水野 恵, 荒木 義雄, 杉本 幸子, 万 クン, 中沢 伸重, 赤尾 健, 下飯 仁, 水田 啓子, 前田 達哉, 高木 博史
Organizer
平成28年度日本醸造学会大会
Place of Presentation
北とぴあ(東京都北区)
Year and Date
2016-10-19 – 2016-10-20
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