2016 Fiscal Year Research-status Report
沙漠緑化樹種Populus simoniiの埋砂・退砂環境における適応戦略
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16K18722
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
岩永 史子 鳥取大学, 農学部, 講師 (50548683)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 乾燥地 / 緑化 / 萌芽 |
Outline of Annual Research Achievements |
中国の乾燥地砂丘緑化の主役である小葉楊(Populus simonii)は埋砂(堆砂)環境では成長の急増、退砂環境では根萌芽による分布域の拡大という特異な成長反応を示す。しかし根萌芽による栄養繁殖について、生態学的な研究成果に重心が置かれており、生理学的なメカニズムは未解明のままである。本研究課題では、課題1:半乾燥地・移動砂丘周辺の微地形条件と萌芽性の関連性;課題2:根萌芽発生の内的制御;課題3:長期的な土壌水分変動の違いが萌芽シュートの水分生理に与える影響の3課題を設定し、小葉楊の萌芽特性の解明と本種の更新特性に基づいた緑化最適条件を明らかにする。 本年度は課題1として、移動砂丘周辺の小葉楊を対象とした根系調査と萌芽頻度を調査し、萌芽性と土壌深度との関係性を検討した。課題2として、課題1で調査した小葉楊萌芽根を対象に萌芽誘発実験を行って、萌芽に関わる生態的要因の検討を行った。 調査では中国内蒙古自治区オルドス高原にて、10×20mの方形調査区を移動砂丘上部、平坦地および傾斜地の3地点に9か所設置した。小葉楊の樹高と地際直径、胸高直径(DBH)と萌芽個体のサイズ、およびそれらすべての位置を測定した。また隣接する植栽地から10個体をランダムに選定し根系調査を行った。 以上の結果、調査地内の植栽木数当たりの萌芽数は砂丘上部で最も多く、傾斜地、平坦地の順に少なくなった。根萌芽発生根は土壌深度-150cm~地表+10cmの深さに伸長していたが、根萌芽の発生は土壌深度約-10 ~ -5cmで最も多かった。地表に露出した根系からの萌芽も多く認められた。萌芽発生根の深度と萌芽サイズに有意な相関は認められなかったが、萌芽発生根の太さと発生した萌芽サイズには相関が見られた。このことは浅深度、かつ成熟した根系から発生した萌芽個体の生存率が高いという既報の結果と一致する結果となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
調査予定としていた小葉楊植栽地におけるメガソーラー建設のため、調査地の再選定と生態調査区の再設置が余儀なくされた。しかし、研究課題の検討に適した小葉楊調査地を近隣の移動砂丘地で設置できたため、調査課題1を順調に遂行することが出来た。一方で、課題2および課題3に関わる萌芽生理特性の調査については、初年度から野外における予備調査を行う予定であったが、上記の理由で遂行困難だったため、国内での圃場実験と新規に設置した生態調査区での実験を開始した。国内圃場の実験準備も進めており、おおむね順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題では以下の三つの課題を設定している。課題1:半乾燥地・移動砂丘周辺の微地形条件と萌芽性の関連性;課題2:根萌芽発生の内的制御;課題3:長期的な土壌水分変動の違いが萌芽シュートの水分生理に与える影響。今年度は主に課題2および課題3について計画を遂行する。具体的には以下の通りである。 <課題2>萌芽の内的制御:萌芽の内的制御に関わる生理的生態的要因の特定として、現地・小葉楊植栽地における萌芽発生実験と国内圃場ポット苗を用いた萌芽誘発実験を行う。昨年度、生態調査区内の萌芽調査個体を対象として、萌芽誘発実験を開始した。本年はその結果の調査と発生した萌芽シュートを対象として先行研究で提示された生態的・形態的特性と小葉楊の萌芽性の関連を検討する。 <課題3>長期的な土壌水分変動の違いが萌芽シュートの水分生理に与える影響:萌芽シュートの成長に影響する要因として、母樹からの同化産物と無機養分の配分や、水資源の獲得が挙げられている。既に、萌芽性と水分通導性との網羅的調査が行われているが、その駆動力となる蒸散特性や浸透調整能を定量的に評価した事例はない。本申請では乾燥条件で衰弱した母樹と萌芽との間での物質配分がどのような樹体内の浸透圧差条件で行われているかに注目し、これらの資源獲得に重要な器官別水分生理特性を明らかにする。調査は昨年度の萌芽実験個体と国内圃場におけるポット苗を対象とした小葉楊萌芽の乾燥実験を通じて行う。
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Causes of Carryover |
課題1に関わる調査予定地の変更を余儀なくされたため、海外調査(2回目)を1年目から2年目へ延期した。そのため、調査に関わる旅費、および消耗品、人件費等を繰り越しとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は海外調査を2回行う予定である。それに関わる旅費、人件費、調査にかかわる器具および実験用消耗品の計上を行う。
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Research Products
(1 results)