2016 Fiscal Year Research-status Report
アスナロ属2変種の太平洋側・日本海側地域への適応分化をもたらした機能遺伝子の探索
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16K18723
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Research Institution | Akita Prefectural University |
Principal Investigator |
稲永 路子 秋田県立大学, 木材高度加工研究所, 特任助教 (30757951)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | アスナロ属 / 局所適応 / RNA-seq / 低温順化 / クロロフィル蛍光 |
Outline of Annual Research Achievements |
冬季に乾燥する太平洋側に分布するアスナロと、日本海側の多雪地帯に分布する変種ヒノキアスナロは、気候条件に対する局所適応によって遺伝的に分化している可能性がある。本研究は両変種間で遺伝子の発現パターンと塩基配列を比較することで、局所適応と関連した変異が見られる機能遺伝子の候補を探索し、両変種の遺伝的分化を系統と生理的な機能から明らかにすることを目的としている。2016年度には、遺伝子発現の季節変動を測定するためのサンプリングと表現型の測定、EST-SSRによる系統解析、およびRNA抽出実験を行った。 本研究に使用するアスナロ属個体は、調査地である大畑ヒバ産地別見本林に植栽された8個体(8産地由来)である。まずアスナロ属の花期をターゲットとして、花芽の成長に関与する遺伝子の発現量変動を検出するため、2016年3月~5月に5回にわたってRNA抽出用葉サンプルを採取した。さらに、冬季の低温に備えた葉組織の順化過程をターゲットとして、日長の変化と気温の低下に誘導されて耐凍性が上昇する時期の表現型および遺伝子発現の両変種間の差異を検出するため、2016年9月~2017年2月に6回のサンプリングおよびクロロフィル蛍光測定を行った。クロロフィル蛍光測定では、凍結時の蛍光強度の変化によって各個体が低温順化した時期と過程を推測できた。次に、全サンプルの遺伝子型をEST-SSRによって確定しStructure解析を行い、客観的な指標によって各個体の系統関係を推定した。RNA抽出実験では、夾雑物を多く含むため従来抽出困難であったアスナロ属葉組織において、RNA-seqに適した高品質、高濃度のRNAを調整可能となるプロトコルを確立した。このプロトコルを使用してサンプルからのRNA抽出を試みたところ、特に2016年9月~2017年2月採取のサンプルで解析に適した濃度のRNAが得られたため、次年度は本サンプルを優先的にRNA-seqに使用する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度までの研究では当初の計画から変更した点があった。まず、年度後半に当たる2016年9月~2017年2月に葉組織のサンプリングを行った。文献精査と研究内容の見直しによって、低温順化過程がアスナロ属2変種間で異なる可能性があると考え、局所適応の重要な形質として観察に適していると判断したためこの変更を行った。第二に、ターゲットとなる形質の変更に伴い、新しくクロロフィル蛍光測定実験を追加した。この実験の狙いは、サンプルの耐凍性が増大する過程を観察することによってRNA-seqの結果を裏付けることにある。これらの変更は、「両変種の遺伝的分化を系統と生理的な機能から明らかにする」という目的を達成するためにより効果的であると考えられる。一方、交付申請書に記載した研究計画のうち、アスナロおよびヒノキアスナロ試料の採取、EST-SSRによる遺伝子型決定、試料の変種推定については計画通り終了したため、現在までの進捗状況はおおむね順調と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度では、RNA-seq、de novoトランスクリプトームアセンブリおよびアノテーションを行い、アスナロ‐ヒノキアスナロ間の遺伝子発現パターンおよびSNPについて比較・考察する予定である。 RNA-seqは試料となる生物組織で発現している全RNAの発現パターンと塩基配列を取得する手法であり、実験は次世代シークエンサーを使用して行われる。近年、次世代シークエンサーによるデータ取得は外部組織への委託が主流となっていることから、複数の見積もりを比較することで低コストでの解析を行う予定である。de novoトランスクリプトームアセンブリおよびアノテーションには専用ソフトウェアを搭載した計算機が必要であるが、2017年4月1日付での就職先である森林総合研究所には当解析に習熟した研究者が在籍しているため、機材の貸借を含めて検討し経費削減に努める。得られた結果をもとに、2変種間の遺伝子発現パターンおよび一塩基多型の比較を行う。
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Causes of Carryover |
本年度は研究計画の変更に伴い、予算における使用比率がもっとも大きい次世代シークエンサー解析を行わなかったため繰り越しが生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は次世代シークエンサー解析を実施する予定である。本解析では外注だけでなく所属先が所有する機器の利用を含めて検討し経費削減に努める。具体的には、次年度から所属する森林総合研究所林木育種センターが所有する次世代シークエンサーIon S5について、ランニングコストを外注と比較検討する。また学会発表として第129回日本森林学会大会を予定しているため、旅費を計上する。
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